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Introduction (Japanese text only)

イントロダクション

さまざまな蛍光色素や蛍光タンパク質を駆使することで、細胞のみならず特定のタンパク質や分子をも可視化し、さらにその局在や挙動までも捉えることができる、蛍光イメージング。見えないものを見るという挑戦の連続で発展し、以前では考えられなかったレベルでの観察が可能となっています。2008年に下村脩氏らがGFPに関する功績でノーベル賞を受賞したことは、改めてその意義深さを感じさせるものです。

一方で、物質に励起光をあて、そこから発せられる微弱な蛍光を捉えるために、顕微鏡技術が蛍光色素・蛍光タンパク質と両輪のように発展してきたということも忘れることはできません。顕微鏡のしくみや特性を深く知ることで、説得力のある蛍光像を得ることができるのです。

シリーズ「蛍光イメージングのABC」では、蛍光イメージングを行っているもののうまく観察ができていない方や、これから蛍光イメージングを行う予定で、事前に知識を押さえておきたい方などを対象に、そのコツをお届けしていきます。


研究者のための、蛍光イメージングのコツ

説得力のある蛍光像を得るためには、イメージングの目的に合わせて顕微鏡システムや対物レンズを選択し、さらに適切に励起光などの条件を設定した上で観察をすることが必要です。

シリーズ「顕微鏡ことはじめ」では、さまざまな顕微鏡システムの特徴と、ズームやピント、絞りなど基礎的な調整方法について解説をしています。本シリーズでは、まず蛍光顕微鏡システムの命ともいえる対物レンズについて解説します。サンプルに合わせて最適なレンズを使うかどうかで、得られる蛍光像は全く違うものになるのです。


蛍光イメージングで使用する“顕微鏡”とは

はじめに、蛍光イメージングで使用する“顕微鏡”について少し触れておきましょう。蛍光イメージングで使用される顕微鏡といえば、“落射型蛍光顕微鏡”です。

この“落射型蛍光顕微鏡”は、照明光学系と観察光学系とからできています。
図1では、「蛍光イメージング」で使われることが多い倒立顕微鏡を用いて説明しています。

「励 起フィルタ」を通った照明光(励起光)は、対物レンズに入射してサンプルに照射されます。サンプルから放射される観察光(蛍光)は、また同じ対物レンズを 通って「吸収フィルタ」を通ってカメラなどの検出系に運ばれます。このように“落射型蛍光顕微鏡”では、照明光と観察光の両方が対物レンズを進行するので す。

図1 落射型蛍光顕微鏡の光学配置(倒立顕微鏡)
図1 落射型蛍光顕微鏡の光学配置(倒立顕微鏡)

対物レンズ選びで蛍光像は大きく変わる

「対物レンズは、サンプルに合わせて変えるべきである」。そう聞いたとき、どんなことを考えますか。「対物レンズにそんなに種類があるの?」「もともとセッティングされている対物レンズしか使わない」。こんな声が聞こえてきそうです。

顕微鏡の場合、なぜか「最適な対物レンズを使う」ということに意識が向きづらくなっています。実際、対物レンズは一度買ったら顕微鏡に取り付けっぱなしで、必要に応じて倍率を変えるだけという人は多いかもしれません。
しかし同じ倍率でも、サンプルの特徴に合わせたレンズを使っているかどうかで、見える像の品質は変わってくるのです。

同じ光学系機器である一眼レフカメラについて考えてみましょう。上級者になるほど、たくさんのレンズを取りそろえ、シーンに合わせて最適な機器とレンズを使って撮影をしている、という姿を想像しませんか。

特に蛍光イメージングでは、対物レンズを通して励起光をあて、サンプルから得られた蛍光もまた対物レンズを通って観察されます。励起光と蛍光という2つの光が対物レンズを通ることから、レンズの特性が蛍光顕微鏡像に大きな影響を与えることになります。そのため、説得力のある蛍光像を得るには、対物レンズの選択が非常に重要な要素になるのです。


同じ対物レンズでも、サンプルによってこんなに変わる

図2 培養細胞の微小管(ほとんど表面付近[表面から約1μm])
図2 培養細胞の微小管(ほとんど表面付近[表面から約1μm])
図2 培養細胞の微小管(ほとんど表面付近[表面から約1μm])

図3 ハムスターの胚(表面から約60μm深部)
図3 ハムスターの胚(表面から約60μm深部)

図3 ハムスターの胚(表面から約60μm深部)

上の図2『培養細胞の微小管』の像ではaの方がシャープに見えています。一方、図3の『ハムスター胚』では明らかにbの方が明るく、高分解な像になっているでしょう。
この図2・図3の蛍光像はそれぞれ、倍率は60倍で、aは開口数1.42の油浸対物レンズ、bは開口数1.20の水浸対物レンズを使っています。
厚みのない培養細胞のサンプルでは、a(開口数1.42の油浸対物レンズ)のほうがシャープに見え、厚みのある胚のサンプルではb(開口数1.20の水浸対物レンズ)のほうがシャープに見えるのです。このようにサンプルの「厚さ」の違いに対して、レンズの特性の差がはっきりと生まれるのがよく分かります。


対物レンズは顕微鏡の命

落射蛍光顕微鏡の場合、対物レンズは先ほども書いた「サンプルに励起光を当てる」「微弱な蛍光シグナルを取り込む」という2つの役目と、対物レンズ本来の働きである「像を拡大する」ということも行っているため、まさに顕微鏡の命ともいえるほど大切な役目を持っているのです。


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