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アプリケーション

TIRF(Total Internal Reflection Fluorescence)イメージングシステムを用いた細胞膜直下における膜形態/膜局在分子のライブセルイメージング


細胞生物学の分野では、隣り合う細胞同士のコミュニケーションに伴う細胞運動や生理現象のメカニズムを解明する研究が盛んに行われています。その中でも、例えば、細胞同士が接着する細胞膜に注目したシグナル伝達系を解析する研究が進められています。その細胞膜研究の有効ツールとして細胞膜近傍のイベントだけをフォーカスしてライブで可視化するTIRF(Total Internal Reflection Fluorescence)イメージングシステムが有効活用されています。
ここでは、神戸大学バイオシグナル研究センター 生体膜機能研究分野 辻田 和也博士、伊藤 俊樹博士らが、研究成果として2015年5月に英国科学誌「Nature Cell Biology」で論文発表された内容をもとに、細胞の極性形成における細胞膜の張力を認識するタンパク質の膜重合・脱重合の変化をTIRFイメージングシステムでライブ観察した一例をご紹介させていただきます。

TIRFイメージングシステムアプリケーション細胞膜張力センサータンパク質“FBP17”の膜への重合・脱重合のライブ観察

1)細胞膜の膜張力を制御するタンパク質“FBP17”と膜のフィードバックループ

神戸大学バイオシグナル研究センター 生体膜機能研究分野 辻田 和也博士、伊藤 俊樹博士らは2015年に細胞運動が物理的な「膜張力」で制御されるメカニズムを世界で初めて分子レベルで解明しました。
その膜張力の分子メカニズム制御において、細胞膜張力を認識するFBP17というタンパク質が重要な働きをします。辻田博士、伊藤博士らは、タンパク質FBP17が細胞膜へ重合・脱重合する様子をTIRFイメージングシステムでライブ観察しました。FBP17がN-WASP-Arp2/3タンパク質複合体との結合を介してアクチンと重合をすることでアクチンを活性化し、このFBP17―N-WASP-Arp2/3複合体―アクチン重合体が膜に結合することで細胞膜の張力が生みだされ、膜張力が上昇することがライブ観察でわかりました。そして膜張力上昇にともなってFBP17―N-WASP-Arp2/3複合体―アクチン重合体からFBP17が脱重合し、反対にFBP17が細胞膜から外れるというFBP17と細胞膜の張力の間でのフィードバックループが起ることを明らかにしましたFig1。

FBP17と細胞膜の張力とのフィードバックループ
Fig1. FBP17と細胞膜の張力とのフィードバックループ

さらに、辻田博士、伊藤博士らは、細胞膜の退縮による一時的な細胞膜の張力の低下がFBP17のリクルートに寄与しているのではないかと考えました。過去の研究より、膜の退縮にはモータータンパク質ミオシンの収縮力が必須であり、ミオシンの収縮力により細胞膜が退縮し細胞膜の張力は局所的に低下してFBP17の重合が再開されること、ミオシンを阻害することで細胞膜の張力が上昇することが既に知られていました。今回、辻田博士、伊藤博士らはミオシンを阻害した際のFBP17の極性の形成について調べるため、FBP17の細胞膜へのリクルートメントがミオシン収縮力による細胞膜張力の一時的な減少に依存するのか実験を行いました。その結果、FBP17は先導端における細胞膜の張力の変動を感知しながら、細胞膜上で重合・脱重合することが示されましたFig2。

GFP標識したFBP17とmCherryタグを付けたLifeactを共発現させたCos-1細胞のライブ観察
Fig2. GFP標識したFBP17とmCherryタグを付けたLifeactを共発現させたCos-1細胞のライブ観察

ミオシンの活性をミオシン阻害剤であるblebbistatinで阻害すると、FBP17は先導端から瞬時に脱重合することがわかった(175sec)。
さらに、このとき高張液(hypertonic)を加えて、細胞膜の張力を人工的に低下させると、FBP17は細胞の全体にわたりランダムに重合した(260sec)。

動画. GFP標識したFBP17とmCherryタグを付けたLifeactを共発現させたCos-1細胞のライブ観察動画

2)タンパク質FBP17の膜への重合・脱重合をシャープに可視化したTIRFイメージングシステム

今回の辻田博士、伊藤博士の研究において、タンパク質FBP17の膜への重合・脱重合をライブで捉えるのにその細胞膜近傍のイベントだけをフォーカスして可視化できるTIRFイメージングシステムを用いたからこそ、分子レベルでのFBP17と細胞膜の張力とのフィードバック機構を解明することができました。
そのTIRFイメージングシステムの中でも特に欠かせなかったのは、温度変化等の外部環境変化によるフォーカスずれに影響されることなく、常にピントのあった画像が取得できるZドリフトコンペンセーターIX-ZDCでした。
ZドリフトコンペンセーターIX-ZDCは、ガラスボトムディッシュのカバーガラスを検出することで、自動でフォーカスを合わせ、常にピントのあった状態を維持することができます。またZドリフトコンペンセーターIX-ZDCのコンティニュアスAF機能はフォーカスを連続的に維持することができ、TIRF等シビアなピント合わせが要求される観察に最適です。
辻田博士、伊藤博士らは、ZドリフトコンペンセーターIX-ZDC導入以前のTIRF観察実験時においては、外部環境の変化の影響のため、撮影の都度、常にマニュアルでピント調整をしなければなりませんでした。また、フォーカスが上下どちらにズレているのかがわからない時もあり、ピント調整したつもりが余計にピントズレを起こしてしまうこともありました。分子の正確なトラッキングが必要とされる本実験にとって、正確なデータを得るのに大変苦労していました。
しかし、ZドリフトコンペンセーターIX-ZDCをTIRFイメージングシステムに導入することで上述のような問題は解消されました。撮影時において自動でフォーカス調整されるため、以前のような顕微鏡につきっきりでフォーカス調整をする日必要も無くなり、正確に膜への重合・脱重合をトラッキングできるようになりました。

Polarisation of FBP17 is induced by PM tension increase.
COS-1cell co-expressing GFP-FBP17 and Lifeact-mCherry was observed by time-lapse microscopy upon hypotonic buffer. The movie was taken at 1 frame per 5 seconds and played at 15 fps.

Polarisation of FBP17 is disrupted by PM tension decrease.
COS-1 cell co-expressing GFP-FBP17and Lifeact-mCherry was observed by time-lapse microscopy upon addition of hypertonic buffer. The movie was taken at 1 frame per 5 seconds and played at 15 fps.

Polarisation of FBP17 is induced by PtdIns(4,5)P2 liberation.
COS-1 cell co-expressing GFP-FBP17, CFP-FKBP-PLC δ1 PH domain, and mRFP-FRB-MoA was observed by time-lapse microscopy upon addition of rapamycin. The movie was taken at 1 frame per 5 seconds and played at 15 fps.

Polarisation of FBP17 is disrupted by PtdIns(4,5)P2 depletion.
COS-1 cell co-expressing GFP-FBP17, CFP-PM-anchored FRB domain, and mRFP-FKBP-5-phosphatase domain was observed by time-lapse microscopy upon addition of rapamycin. The movie was taken at 1 frame per 5 seconds and played at 15 fps.

Dynamics of FBP17 at the leading edge. COS-1 cell co-expressing GFP-FBP17and Lifeact-mCherry was observed by time-lapse microscopy. The movie was taken at 1 frame per 5 seconds and played at 15 fps.

Acute disruption of FBP17 polarity by N-WASP inhibition. COS-1 cell co-expressing GFP-FBP17 and Lifeact-mCherry was observed by time-lapse microscopy upon addition of wiskostatin. The movie was taken at 1 frame per 10 seconds and played at 15 fps.

Acute disruption of FBP17 polarity by Arp2/3 complex inhibition.
COS-1 cell co-expressing GFP-FBP17 and Lifeact-mCherry was observed by time-lapse microscopy upon addition of CK-666. The movie was taken at 1 frame per 10 seconds and played at 15 fps.

TIRFイメージングシステム;
顕微鏡: フル電動倒立型顕微鏡IXシリーズ
Zドリフトコンペンセーター: IX-ZDC
高開口対物レンズ: PlanApo 100XOTIRF(倍率100X、開口数1.45)
CCDカメラ: Cascade II cooled CCD camera (Photometrics)

画像データのご提供;
神戸大学バイオシグナル研究センター 生体膜機能研究分野
辻田 和也助教、伊藤 俊樹教授

参照論文;
Nat Cell Biol. 2015 Jun;17(6):749-58. doi: 10.1038/ncb3162.
J Cell Sci. 2013 May 15;126(Pt 10):2267-78. doi: 10.1242/jcs.122515. 

ZドリフトコンペンセーターIX-ZDC

ZドリフトコンペンセーターIX-ZDCは細胞への光毒性の少ないIRレーザーを用いて培養ディシュやマイクロプレートのガラス、プラスチック容器底面を自動で検出し、高速でフォーカス合わせができます。従来、温度変化等の外部環境変化が原因で生じていたピントずれを解消することができます。
ZドリフトコンペンセーターのコンティニュアスAF機能はフォーカスを連続的に維持することができ、TIRF等シビアなピント合わせが要求される観察に最適です。
96ウェルマイクロプレート用いた場合は各ウェル底を高速でフォーカシングし、約2分*で全てのウェルをスキャンでき、スピードアップしたセルベースアッセイを実現します。*96穴マイクロプレートの各ウェル1点を露出時間30msで連続撮影した場合
汎用性の高いプラスチックボトムのマイクロプレートを使用する場合には、ZドリフトコンペンセーターIX-ZDCに対応した20倍高NA位相差対物レンズUCPLFLN20XPHを用いることで、ガラスボトムのマイクロプレートと同様に常にフォーカスのあった蛍光・位相差画像が取得できます。

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  • 個別の浸透深度コントロールにより、最大4つのマーカーを正確に共局在化
  • 世界最高のNA 1.7*を有する当社のTIRF対物レンズを利用
  • Graphical Experiment Manager(GEM)、cellFRAP、U-RTCEにより複雑な実験を直感的に設定
* 2017年7月25日時点。当社調べ。
超解像/TIRF用高解像対物レンズ

APON-TIRF/UAPON-TIRF/UPLAPO-HRシリーズ

  • 高開口数を極めた対物レンズ群で、エバネッセント照明の構築や超解像観察に有効。
  • 特にHRシリーズは、オリンパス独自のレンズ製造技術により、優れた画像フラットネスも提供。
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IX3-ZDC2

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