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レンズの後ろ側: Stephanie Shiers博士が生み出す表紙を彩る神経科学作品

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染色したヒト脊髄のホールスライド画像

Stephanie Shiers博士はテキサス大学ダラス校の研究科学者で、2019年に認知と神経科学のPhD課程を修了しました。彼女の研究では、Southwest Transplant Allianceから提供されたヒト神経組織を使い、慢性痛の前臨床メカニズムと治療法を調べています。

Stephanie博士の顕微鏡画像はいくつかの研究誌に選ばれました。最新のものは、Science Translational Medicine(Feb. 16, 2022)の表紙になっています。Stephanie先生に、表紙を彩る素晴らしいアートの制作にまつわるお話を伺いました。

Stephanie Shiers博士による研究誌の表紙作品

Science Translational Medicine(vol. 14, issue 632)の表紙を飾ったStephanie Shiers博士の作品(AAASの許可を得て転載)。

Q:科学者になるきっかけを与えてくれたのは誰または何ですか?

Stephanie:私は自分のやりたいことが分からず、専攻と副専攻が合わせて3つありました。元々は医大に行くつもりでした。でも、救急救命士(EMT)トレーニングコースを取ってみて医学はやりたくないと気付きました。そこで神経科学と歴史を追加しました。自分が人文科学を気に入って弁護士になるか、神経科学を学んでPhDになるかもしれないと考えたからです。学士課程を終えた後も、キャリアのために何をしたいか分かっていませんでした。キャンパスで研究室に加わるまでは。それが本当に気に入ったんです。

最終的に、UC Davis/NIH NeuroMab Facilityの免疫組織化学の仕事に応募しました。この施設は前臨床研究で使用するモノクローナル抗体を生成していました。私はその仕事のあらゆることが好きでした。染色、抗体検証、顕微鏡での観察といった作業です。やりがいがあって目を開かせられる仕事でした。指導をしてくださったBelvin Gong先生とKarl Murray先生はとても励ましてくださり、キャリアを固める支えになりました。そこでの時間は「科学は魔法に一番近いもの」と気付かせてくれました。今ではいつもそのことを学部生やPhD課程の学生に話しています。私たちはタンパク質とmRNAを作っていますが、そのすべてが蛍光を発します。それによって肉眼では見えないものを観察しています。ある時点で、この世の誰も知らない何かを知ることになります。私にとってはそれが魔法なのです。

Q:最も満足した忘れられない顕微鏡観察の瞬間は何ですか?

Stephanie:最も満足した瞬間は、初めて論文が表紙の画像と共に発表されたときです。初めての論文発表には心踊りました。大好きな神経科学作品のためにきれいな写真を撮ったにすぎなかったので、表紙まで飾れるなんて思いませんでした。論文用のデータはすべて40倍の対物レンズで取得していました。それで私は、一部の画像には100倍の対物レンズを使ってきれいな写真を撮り、高い倍率で観察することにしました。このほど開設したDiscovery Centerには、新たにFV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡を導入しました。今までこのシステムを使ったことはありませんでした。樹状突起や軸索起始部をすべて見ることができ、心打たれました。その画像を主任研究員のTed Priceさんに見せたところ、論文提出に併せて表紙アートの掲載もお願いしてみたらどうかと言ってくれたんです。

Stephanie Shiers先生による研究誌の表紙作品

Stephanie Shiers先生による研究誌の表紙作品(The Journal of Neuroscience vol. 38, issue 33(左:Society for Neuroscienceの許可を得て転載)とScience Translational Medicine vol. 13, issue 595(右:AAASの許可を得て転載))。

一番忘れられない瞬間は、研究室で染色作業に苦戦する学生に教えていたときです。彼女は顕微鏡の訓練を受けていなかったので、一緒にFV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡を使ってみました。そのときの彼女の様子が忘れられません。圧倒された表情をしていました。それを見てとても嬉しかったです。それは私がPhD課程を始めた頃に、FV1200システムで初めてイメージングを行ったときに感じたもののようでした。誰かが科学の不思議さと驚きを体験しているのを目の当たりにするのは素晴らしいことです。私の神経科学作品を初めて見た人に感じてもらいたいこと—それは魔法のきらめきです。

Q:研究誌の表紙に作品が載ることは、ご自身にとってどのような意味がありますか?

Stephanie:大喜びでしたよ、PhDプログラムに参加するのは怖かったので。周りの誰もが専門家で、私は自分が何をしているか分かっていると感じられませんでした。ストレスの多い時間でしたが、上出来のデータを得て、つらい作業を首尾よくまとめて雑誌の表紙と論文にすることができ、どちらも報われて肯定的なものになりました。つらかった研究やストレスはすべて、最終的に無駄ではなく、かけがえのないものとなりました。それは今も変わりません。その初めての経験は素晴らしく、今でも7年前に記録したビデオを持っていますが、額に入った表紙作品を抱えている私が映っています。

表紙作品の額を抱えるStephanie Shiers先生。

Q:このような表紙を飾る画像を作ろうとしている人に何かアドバイスはありますか?

専門家からのヒントその1:まず適切な機器を持つことが大いに役立ちます。

Stephanie:NeuroMabでの研究から、明視野イメージングと神経構造について多くを学びました。PhDプログラムを開始したとき、この知識を適合させて、EvidentのFV1200/FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡やVS200リサーチスライドスキャナーなど、免疫蛍光イメージングシステムやより高性能なイメージングシステムを用いて研究しました。FV3000システムは、これまで使った中で最高の装置です。この高性能顕微鏡システムは、可能な限り最高画質の画像を取得する段になるとまったく別レベルで、それまで使っていたものに比べてSN比が非常に高くなっています。

染色したマウス脳矢状断のホールスライド画像

AMIGO1(緑)、IBA1(シアン)、GFAP(マゼンタ)、DAPI(青)で染色したマウス脳矢状断のホールスライド画像。VS120スライドスキャナーでStephanie Shiers博士が取得。

専門家からのヒントその2:できるだけたくさんのトレーニングを積み、その知識を基に進めましょう。

Stephanie:顕微鏡観察はたくさん経験してきましたが、ほとんどは明視野イメージングと免疫ペルオキシダーゼ染色でした。そのため、高価な顕微鏡は必要ありませんでした。しかし私は、神経構造、細胞特異性、タンパク質の細胞内局在性といったことについて多くを学びました。

私がそれまでの知識を免疫蛍光染色に適合させたのは、PhDプログラムに参加してからでした。免疫蛍光染色で一番重要なのは、正しい負の制御を行うことだと言えます。バックグラウンドノイズと真の信号の違いを理解するのがとても大事だからです。顕微鏡の正しい使い方を理解することも非常に重要です。Evidentの専門チームは、VS120スライドスキャナーやFV1200/FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡といった高性能システムの使用方法を教えてくださいました。

染色したマウス下辺縁皮質の共焦点画像

GFAP(緑)、DAPI(青)、AMIGO1(赤)で染色したマウス下辺縁皮質の共焦点画像。FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡を使用し、100倍でStephanie Shiers博士が取得。

専門家からのヒントその3:データ収集時にイメージングをあらかじめ計画しましょう。

Stephanie:データ収集用にイメージングするときには、いつも事前にデータ図を思い描いています。PhD課程の学生時代の私は、データ収集して数週間かけて分析し、このデータをすべて収集したずっと後に、目立たせるために解像度を高くした画像を取得する必要があったことに気付きます。そこでスライドを使ってイメージングをしますが、もちろんそれが同じように見えることはありません。ここで分からなくなります。実験を繰り返さないといけないのだろうか?この低画質の画像を図として使うのだろうか?今の私がデータ収集用にイメージングするときには、研究論文に使う画像を含め、常に図を念頭に置いています。観察対象を表すものを見つけたら、そのときに高解像度画像を撮影します。

雑誌の表紙用に高解像度画像を撮ることもあり、必要ならZスタックを使用します。常に少なくとも1枚は、目を引く高解像度画像を撮るようにしています。

専門家からのヒントその4:新しいことを実験して試してみましょう。

Stephanie:世の中にはさまざまな種類の染色法があります(明視野の病理染色、トレーサー、遺伝子標識、カルシウム染色)。これらの染色法を強力な顕微鏡と組み合わせると、実に抽象的で人目を引く画像を簡単に生成できます。私の気に入っている画像の1つは、EvidentのEric Bridenbaughさんと撮影したものです。彼は、FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡では6チャンネルの免疫蛍光が可能だと話のついでに触れました。私たちはとても興奮し、思い付きで試してみようということになりました。6チャンネルのイメージングは、技術面とイメージング面の課題からほとんど聞いたことがありません。一般に免疫蛍光染色を行う場合、種の互換性の問題から3~4つの抗体に制限されます。そして蛍光染料の発光プロファイルの重なりから、イメージングチャンネルは3~4つに制限されます。本質的に、光の各波長を明確にして各染色を個々に視覚化することはできません。でも、私はNeuroMabで学んだ技を使いました。アイソタイプ固有の抗体の使用です。この技によって、6チャンネルで染色したサンプルを生成できました。Ericの助けを得てFV3000顕微鏡のTruSpectral™ 検出器を構成し、各染色を取得して、初めて成功させました。私たちが生み出したこの美しい6チャンネル染色画像では、各構造をはっきりと見ることができます。信じられない光景です。画像は虹色に彩られてとても魅力的です。

染色したマウス前頭前皮質の共焦点画像

GFAP(黄)、CAMKII(赤)、AMIGO-1(シアン)、Parvalbumin(紫)、AnkG(緑)、Nuclear yellow(青)で染色したマウス前頭前皮質の共焦点画像。FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡を使用し、100倍でStephanie Shiers先生が取得。

専門家からのヒントその5:楽しんで作業し、図案化を忘れずに。

Stephanie:私は神経科学画像の芸術的なところが大好きなので、楽しんできれいな写真を撮り始めました。もちろん、きれいな写真はデータ収集に使いますが、単にきれいな写真を撮る目的で撮影することもあります。それが私が画像を撮る理由です。研究室のサーバーには、私のベスト画像フォルダーが作られています。それを楽しんでいます。一部の画像はPhotoshopで加工したり、色、明るさ、コントラストを変えたりします。ですから、同じ写真のレンダリングがたくさんあります。また、新しいイメージングツールや染色を試すのも好きです。UT DallasのDiscovery Centerは、始めはFV3000共焦点顕微鏡だけを設置して開設されました。私はその顕微鏡で100倍の倍率を試してみたいと思いました。所有していた他の顕微鏡にその倍率がなかったからです。

染色したマウス大脳皮質の共焦点画像

NeuN(マゼンタ)、AnkG(緑)、DAPI(青)で染色したマウス大脳皮質の共焦点画像。FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡を使用し、Stephanie Shiers博士が取得。

Q:顕微鏡画像を発表しようとしている人にどのようなアドバイスがありますか?

Stephanie:できるだけたくさんの画像を応募することです。多くの人は、自分の写真に表紙画像の価値がないと考えて作品を応募しません。あるいは、論文が受け入れられたことに興奮して、表紙画像も応募できることに気付かないかもしれません。多くの雑誌は表紙画像の応募を熱望しています。

また、多くの人は雑誌の表紙画像はデータ収集に使った正確な画像でなくてもよいことを知りません。雑誌の表紙はスケッチのように抽象的なことがよくあります。アーティストに描いてもらうことさえあります。

顕微鏡で取得したマウス後根神経節を図案化した画像

NF200、CGRP mRNA、P2x3r mRNA、Ifnar2 mRNA用に染色したマウス後根神経節の共焦点画像を複数に図案化したレンダリング。FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡を使用し、Stephanie Shiers先生が取得。

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プロダクトマネージャー

Dr. Joanna Hawrylukは、Evidentのリサーチイメージングのプロダクトマネージャーです。現在は、細胞培養インキュベーションモニタリングシステム、3D細胞解析ソフトウェア、電気生理学顕微鏡、ライトシート顕微鏡を担当しています。コネチカット大学の生理学・神経生物学部で博士号を取得しています。

2023年3月28日
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