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共焦点顕微鏡の対物レンズ

従来型の光学顕微鏡構成では、画像の情報量の決定において、対物レンズはシステムの最も重要な構成部品です。試料細部のコントラストと分解能、情報を取得可能な試料内の深さ、像面の横方向の範囲といったことはすべて、対物レンズの設計と、特定の観察条件下でのレンズ性能によって決まります。共焦点走査法では対物レンズにさらなる要求が課され、この重要なイメージング部品は照明コンデンサーとしても機能します。そして多くの場合、広範囲の波長、ごく弱い照明で高い精度を、受け入れ難い画質低下ノイズを取り込まずに達成することが求められます。

図1

他のシステム構成部品の機能がどうであれ、対物レンズで最初に取得されなかった情報が画像に追加されることはありません。結像経路内でにある特定の中間部品を使いが補正を行うことはありますが、その主な性能要件は、対物レンズから受け取った基本的な画像情報の低下をできる限り少なくすることです。従来からより、特定の用途の対物レンズを選ぶ際に考慮する主な変数は、倍率、乾燥系か液浸系か、レンズ系の開口数です。レーザー、蛍光染料、新しい標本標識力の技術向上による新たなイメージング法の開発や、顕微鏡メーカーの絶え間ない光学的改良が、特定の研究領域に飛躍的な進歩をもたらしました。特に細胞・分子生物学や神経科学の分野に顕著で、共焦点顕微鏡を蛍光観察法と組み合わせた方法は、研究手段として広く頼られています。

図1に示すのは、紫から近赤外領域までのレーザー照明と併用するように設計された高性能対物レンズです。60倍の平面(プラン)アポクロマート油浸系で、405~1,000 nmの波長範囲で補正されます。この対物レンズの用途のうち有用なのは、同時蛍光と微分干渉観察(DIC)観察です。

共焦点顕微鏡の対物レンズに対する一般的な要求は、他の重要な顕微鏡用途の場合と似ていますが、新しい技術により要求が拡大し続け、これらのレンズ系の性能限界に迫ることがかつてないほど多くなりました。特定の用途に固有の限界によって、他の対物レンズの特性が、従来から最重要とされてきた特性と同等かそれ以上に重要であることが明らかになりました。現在期待できる技術の基本的な要件を満たすため、メーカー各社はこれらの手法の性能の最適化に特化した光学系を新たに導入しています。高い開口数の高度に補正されたシリコーンオイル浸対物レンズの開発は、水媒体内での研究が必要な生きた細胞や組織の研究の急増に対応した一例です。共焦点顕微鏡に固有の要件によって、分解能を損なう1つ以上の収差はあまり補正せずに、共焦点性能にとって重要な他の設計目標を優先する光学系の開発につながる可能性があります。

レーザー走査型顕微鏡の分解能

光学系における分解能とは、2つの試料の形状を最終像で個々に見分けられる、2者間を分かつ最小距離として一般に認められています。視覚認識に必要とされるコントラストに基づいて定義すると、分解能は波長(λ)と光学系の開口数(NA)の関数として数値化できます。レンズ開口部を通る回折した波面間の干渉は、像面にエアリーディスクの強度分布を生みます。この直径(d)は、回折限界システムにおいて以下の式で求められます。

dAiry= 1.22 • λ/NA

有名なレイリーの基準では、2つの同一の点は、エアリーディスクの半径の距離で離れている場合にかろうじて見分けられるとしています。したがって、エアリー半径(r)は横方向の分解能に等しく、前述の式を変えて定義できます。落射蛍光観察を行う場合、対物レンズはコンデンサーと対物レンズの両方の働きをするため、以下の式でNAは対物レンズの開口数を表します。

rAiry= 1.22 • λ/(2 • NA)

点物体からエアリーパターンへの強度を横方向に再分布する回折限界もまた、光軸に沿ったピンぼけを生み、像点のサイズと形状を変えます。3次元強度点広がり関数は強度分布を意味し、試料の情報を像面に伝える光学系の性能を表します。さまざまな光学収差は屈折レンズ系の特徴であり、対物レンズの設計や他の光学部品による補正で修正されない収差は、像内の各試料点を表す強度分布を変え、理想的な回折限界性能に関して像が低下します。観察用の対物レンズを選ぶ際、共焦点用途において考えられる収差の相対的な重要性を考慮する必要があります。対物レンズの設計と性能における最重要要素は、特に共焦点顕微鏡に関わるため、後のセクションで説明します。

生物学用途で最も広く使用されている共焦点顕微鏡構成では、コンピューター制御の走査システムを使用して、対物レンズを通って集束したレーザー光を偏向し、固定された試料全体に当てます。これは、走査光が光軸の両側に偏向されるため軸外共焦点走査と呼ばれ、対物レンズの周辺領域を利用します。光学顕微鏡で初期に導入された走査法の一部では、レーザー光が光軸上に固定され、試料ステージまたは対物レンズが走査される軸上走査を利用していました。

原理上は2つの走査法で生成される結果は同様ですが、適切な性能を得るために対物レンズを選ぶ際の要件は、軸上と軸外光の走査では大きく異なり、対物レンズを通して発せられた蛍光を集めるための考慮事項も異なります。3つ目の走査タイプでは、回転するニポウディスクを利用して、光源や顕微鏡ステージを動かさずに試料全体の多数の照明点を走査します。ただし、ニポウシステムが多く使用されるのは生細胞研究です。これは、高輝度走査レーザー源を使用する構成と比べて細胞損傷を最小限にする能力があるためです。

図2

対物レンズ性能に影響のあるレンズ収差は、2つのカテゴリーに分けることができます。波長によって変動しない非色収差と、波長に依存する色収差です。色収差は横色収差または縦色収差として特徴づけられ、波長に依存しないグループには、球面コマ非点像面湾曲歪曲の各収差があります。色収差と球面収差は像面全体に影響するのに対し、その他の収差は軸外域に多く見られます。色収差と球面収差(図2を参照)は、共焦点性能に最も悪影響を及ぼしやすい性質があります。一般に、色収差は手続き上の修正がきかず、光学部品の設計で補正する必要があります。その他の収差、特に球面収差は、対物レンズの不適正な使用や不適合な光学部品の使用によって悪化することがよくありますが、適切な方法に従ったり光学系を調整したりすることで影響を最小限に抑えたり補正したりすることができます。

球面収差

球面収差は、共焦点性能にとって最も重要な非色収差であり、近軸および周辺光線を連続する面に集束させる球面レンズ部品の性質が現れたものです。さまざまなレンズ領域を通る光路の屈折度合いの変化によって点光源の焦点像がぼやけ、焦点面の上下で非対称な強度変化を生みます。現在のすべての対物レンズでは、レンズ設計の指定された作動変数が正確に満たされる場合、球面収差は視覚的に認識できないレベルに補正されます。残念ながら、実際には対物レンズの光学設計基準からのずれが認められる可能性がいくつか存在し、球面収差が起こります。球面収差が適切に補正されるのは、対物レンズと試料と像面の距離関係が正確に指定された場合に限られるため、対物レンズに対して指定された鏡筒長が維持されない場合、不本意な結果になる可能性があります。このような状況が発生するのは、顕微鏡に使用する対物レンズが有限補正系で求められる鏡筒長でない場合、つまり有限補正系の集束ビーム路程にフィルターなどの光学部品が導入された場合です。

球面収差の最適な補正には対物レンズ以外の結像媒体に細心の注意が求められ、これが性能低下の別の要因になる可能性があります。対物レンズの特性は設計で決まり、作動条件範囲に合わせて調整することは期待できません(補正環による調整は除く)。大幅な球面収差を起こす要因としては、対物レンズと試料の間に使用するイマージョンオイルの品質の低さ、非標準のカバーガラス厚さ、試料の封入剤、試料自体が挙げられます。試料と対物レンズのフロントレンズ面の間に入るすべての材料は、結像系の重要な要素になります。対物レンズの設計要件を順守することは、高い開口数ではさらに重要になります。特に乾燥系(非液浸系)の対物レンズでは、カバーガラス厚や屈折率の変動が球面収差を大きくする場合があります。通常、高開口数の乾燥系対物レンズは、カバーガラス厚0.17 mmで最適な性能を発揮するよう設計されており、試料はガラスの真下に接触させて載せます。

非標準カバーガラス厚を使用する場合に球面収差補正ができるよう、多くの対物レンズにはさまざまな厚さ設定に調整できる補正環が装着されています。補正環は、内部レンズ群を動かして対物レンズの焦点距離を変えます。正しいカバーガラス厚を使用している場合でも、ガラスと試料の間に載せる媒体層があると理想的な光学状態からずれて、球面収差の度合いが高まります。このような屈折率の変化による球面収差によって、共焦点顕微鏡ではピンホールでの光の強度低下や、軸の焦点ずれによる深さ識別の低下が発生しますが、これも補正環を使って最小限に抑えることができます。

油浸用の対物レンズは通常、カバーガラス厚0.17 mm、特定の波長での屈折率1.518、精密に定められた屈折率を持つイマージョンオイルに対して最適化されています。カバーガラスとイマージョン媒体に関して動作条件を指定することで、複数の波長値用に設計された対物レンズによって球面収差を補正できます(対物レンズの種類による)。試料から搭載媒体を通り対物レンズのフロントレンズまで、光路全体で各材料の屈折率を合わせることの重要さは、歴史的に最も難しい結像基準の1つであり、特に生物学的試料の高い分解能を達成しようとする場合に問題になります。細胞成分の屈折率は従来のイマージョン媒体のものに比べてかなり低く、多くの場合は屈折率が不確かになりな上、試料全体で変動します。固定された材料であっても、搭載媒体の屈折率は市販のイマージョンオイルと同一でないことがほとんどです。

図3

生理食塩水中で培養、維持された生細胞の動態過程の研究では、オイルと水の屈折率の不一致によって油浸対物レンズの性能に重大な限界が生じます。主な問題は、最高の開口数を持つ油浸対物レンズを使用しても、水の屈折率(1.33)がイマージョンオイルの屈折率(約1.5)と一致しないため、能力を最大限に生かせないことです。共焦点顕微鏡の用途で重要な要素は、改善された蛍光イメージングと厚い試料の3次元表示ですが、水性試料に油浸対物レンズを使用すると生じる球面収差によって、基準を満たす画像を取得できる媒体への深さが制限されます。一般に、高い開口数の油浸対物レンズは、カバーガラスより15~20マイクロメートル下までの像面で使用するように設計されています。ただし、水性試料に使用する場合、水とカバーガラスの界面で生じる球面収差は10マイクロメートルほどの深さでかなりのレベルに達する可能性があります。一例として、図3の点広がり関数は、浸透深さ0~8マイクロメートルでプランアポクロマート油浸対物レンズを使用した場合に生じる球面収差の増加度合いを示しています。

水性の生物学的試料から3次元データを収集するために共焦点蛍光法を使用することへの関心から、顕微鏡メーカー各社は高開口数と高度に補正された水浸対物レンズを導入しました。しかし、水には2つの欠点があります。速く乾いてしまうため長時間のタイムラプスイメージングが不可能なことと、屈折率が1.33と低いため高開口数の対物レンズに使用できないことです。そこでメーカー各社は、屈折率が生細胞に近い1.4で乾燥しないシリコーンオイルをこの目的のために導入しました。油浸対物レンズを使用する場合、生細胞の共焦点研究で大きな光学的制限となるのは球面収差で、水性媒体への観察深度と変動しやすい細胞成分に比例して作用が増大します(図3を参照)。結像への悪影響としては、検出器のピンホールに届く蛍光強度の低下によるコントラストと信号強度の損失、微細な試料形状の分解能の損失、3次元画像の完全な再構築に影響するz軸位置精度の低下があります。カバーガラスのかなり下にある水性媒体中の試料を結像する場合にシリコーンオイル浸対物レンズを使用すると、球面収差による画質低下が避けられるか最小限になり、共焦点法の利点をフル活用できます。作動距離の長いシリコーンオイル浸対物レンズでは、水性媒体内の200マイクロメートル以上の深さで正確な3次元データを収集できます。

油浸対物レンズを水浸試料の結像に使用するのは、光学補正の度合いに関係なく適切な選択ではありません。この組み合わせで最適な画質が得られるのは、カバーガラスに直接接触している試料部分のみです。深度が大きくなると、球面収差によってコントラストと分解能が低下し、共焦点SN比が大幅に低下するほど像の明るさが低下します。水性媒体への深度が大きい結像で球面収差の発生を最小限に抑えるには、高度に補正されたシリコーンオイル浸対物レンズを使用するのが最適です。

球面収差の補正に使用される方策の1つは、水浸およびシリコーンオイル浸対物レンズへの補正環の実装です。補正環では、カバーガラスの厚さの変動などによる球面収差に合わせた補正が可能です。また、生理学的媒体や細胞・組織成分の屈折率の違いのほか、温度や溶質濃度の変化に伴う屈折率の変動も良うまく補正します。球面収差の発生にはさまざまな要因が関わり得るため、カバーガラスが適切な厚さであっても、対物レンズの調整可能な補正は共焦点法に望ましい機能といえます。

軸外光学収差

コマと呼ばれる一般的な光学収差は、光軸から離れた点状光源に作用して像点の筋のような放射状の収差を生み、視野角と度合いが大きくなります(図4を参照)。コマ収差は球面収差と似ているところがあり、どちらも同じ要因で生じる可能性があります。この収差は一般的に、現在の光学系では適切なレンズを使用することで適切に補正されており、コマ収差と球面収差が排除された対物レンズは無収差と分類されます。コマは元々軸外収差であるため、共通して軸外光路を使用する共焦点レーザー走査型システムにとっては重要ですが、試料走査型(軸上)共焦点顕微鏡にとっては重要ではありません。

その他のいくつかの幾何収差は共焦点対物レンズの性能にとって重要な可能性があり、そのどれもが中心から離れた像面領域でより顕著に表れることから、共焦点レーザー走査型システムの性能に影響しやすくなります。共焦点イメージングの光学的要求は、高度に補正された光学レンズだけが適切に機能するというもので、通常、重要な幾何収差はこのカテゴリーの対物レンズでは最小限になっています。ただし、対物レンズの選択時に、これらの収差と起こりうる問題について知っておくと有益です。特に、特定の用途にとって重要な変数を最適にするために、別の性能を犠牲にする場合、に特に役立ちます。

図4

補正されていない非点収差は、像の強度、鮮明さ、コントラストを低下させ、光軸からの距離が離れるほど作用が大きくなります(図4)。非点収差像点の形状は、像の波面を横断する2つの直交面によって定義できます。非点収差系の面(タンジェンシャルとサジタル)は焦点距離が異なると、完全に対称な試料点について個別の放射状域を示すことがあります。この収差は軸外に対称的な点状形状を生み、焦点に応じて像面に放射状または接線方向に広がります。2つの端部間の妥当な位置で最良の焦点を選択すると、エアリーディスクは非対称になり、像はぼやけます。非点収差は低品質または損傷した対物レンズで中心がずれていることが原因で生じ、顕微鏡の光路内にあるその他のずれによって増強されます。

像面湾曲または視野のフラットネスと呼ばれる対物レンズの特性も、より広い視野のイメージング(特に組織切片)を必要とする共焦点イメージングの大きな懸念事項です。単純な球面レンズは、平らな試料のさまざまな領域からの像点を湾曲した像面に集束しますが、これがレンズ面の形状を反映します。平らな像面は湾曲した焦点面に一致しないため、視野の中心と周辺領域のピントを同時に合わせることはできません。この視野の湾曲を補正し、ピントの合う中心域のサイズを広げるには、複数のレンズ群から構成される複雑なレンズ設計が必要です。フラットフィールドまたはプランと示された対物レンズは、中間像面で像面湾曲を最小限にして、中心から端までピントの合った広く有用な視野を作るように光学補正されています。最終像面の視野のフラットネスは、顕微鏡の接眼レンズなどの中間光学部品にも左右されます。

像面の中心から端までの倍率の非直線性は、試料の形状的な歪曲を生み、正確な寸法形状が歪んだ像になります。この作用がある場合、直交する線を結像するとすぐに観察でき、像面全体が直線に見えずに、視野の中心から離れた領域で線が外側または内側に歪曲します。この2つのタイプの歪みをそれぞれ一般に、樽型および糸巻き型歪曲といいます。像面湾曲の場合と同様に、生物学的用途では少しの形状歪曲はそれほど重大なことではありませんが、材料科学研究で欠陥解析や精密測定を目的とする場合は非常に重大な場合があります。

色収差

収差は、波長依存性がありさまざまなタイプの画像欠陥を生む、2つの基本的な光学現象によって発生します。1つ目の色収差は、すべての光学ガラスの屈折率が波長ごとに異なることに起因し、2つ目の色収差は波長ごとの倍率の変動によるものです。波長の屈折率への依存性(一般に分散という)は、変動する波長の光に対する有効焦点距離の差を生みます。したがって、単一のガラスで構成された単純なレンズの場合、特定の焦点設定により像面で正確に焦点が合うのは、1つの波長(または狭い範囲の波長)のみです。その他の波長はレンズより近くまたは遠くで焦点を結びます。結果として生じる光軸に沿ったスペクトル分散を、縦色収差または軸上色収差といいます(図5を参照)。光軸上に結像される点状光源の場合、屈折率の変位によって青色の光はレンズに最も近い位置に集束し、波長が長いほどレンズから遠い焦点位置に集まります。この収差を補正しない場合、画像が最良の視覚焦点のどちらかの側でぼけた際に、さまざまな色の縁取りが見られます。

図5

共焦点顕微鏡に使用される対物レンズに未補正の縦色収差があると、影響は重大です。特に、2つ以上の蛍光色素をイメージングする場合、複数の波長で蛍光発光の共局在化を明示できることに依存するため、影響が大きくなります。複数の蛍光色素を使用すると、縦色収差によってさまざまなレーザー励起光が試料内の各さまざまな異なる点に集束し、同様に不一致点からの多様さまざまな発光波長が集まることになります。この収差が原因となり、3次元で試料データを生成するために必要な、z方向の蛍光色素の正確な位置を確立できません。

共焦点走査法では、特定の対物レンズについて像の完全性に対する色収差の影響を評価するために、ピンホールを通り検出器で記録される信号エネルギーを決定するすべての要素を考慮する必要があります。この要素には、励起レーザー発光スペクトル、各蛍光色素の発光ピークと帯域幅、検出器のスペクトル感度などがあります。縦色収差の補正は、さまざまな光学特性を持つ複数のレンズを組み合わせた対物レンズ設計で行われることが多く、補正の程度は対物レンズを各種カテゴリーに分類する根拠の一部になっています(後述します)。

波長に伴うレンズ焦点距離の変動は、縦色収差を特徴づける軸上分散を生みますが、横色収差の発生の原因でもあります(図5を参照)。倍率は焦点距離に反比例するため、波長に伴う焦点距離の変動は、波長に伴う倍率の変動を生みます。対物レンズでこの収差が補正されていない場合、像の鋭い端部が赤色や青色の縁で囲まれる可能性があります。補正されていない対物レンズでは、信号からの青い波長成分の倍率は、赤い波長成分の倍率と約1~2%異なります。横色収差が共焦点走査型システムに見られる場合、ピンホールで信号が失われることがあります。これは、発せられた光による結像が実際の試料の位置ではなく、光のスペクトル成分に応じて光軸より近くまたは遠くになるためです。

2種類の色収差は相関しているため、縦色収差が高度に補正された対物レンズでは、横色収差も最小限になります。光学性能に影響するさまざまな要素を補正する上で、顕微鏡メーカー各社は異なる方法を取るため、収差の補正を最大限に得るにはシステムコンポーネントを慎重に一致させることが不可欠です。共焦点蛍光顕微鏡では、横色収差を補正していない場合、と縦色収差と同様の問題が発生し、さまざまな波長で発せられた蛍光色素の位置のマッピングに誤りが生じます。

光学顕微鏡製造の歴史のほぼ全体を通して、遵守され従われてきた対物レンズ設計の基準では、接眼レンズの前焦点面に対応して、対物レンズ装着面からの指定された固定距離に実像を作ることが求められてきました。対物レンズによる中間実像の直接形成に基づく構成は有限系と呼ばれ、中間像までの距離は対物レンズの鏡筒長と呼ばれます。かつてさまざまなメーカーが、同一の鏡筒長と同焦点距離に対する有限光学系を標準化していましたが、レンズ収差の補正には各種の方法が取り入れられており、異なるメーカーの光学部品を組み合わせて使用する場合にはこの係数を考慮する必要があります。有限系は対物レンズの収差を完全に補正するように設計されています。つまり、既知の残差レベルの横色収差は対物レンズが作る像では許容され、接眼レンズで補正されます。

図6

無限遠光学系では、対物レンズを出た光線は集束せず平行に進み、結像レンズ(telanレンズとも呼ばれる)によって中間像面で集束します。ほとんどの主要顕微鏡メーカーは、無限遠補正光学系を開発しています。この光学系には固有の利点があり、無限遠に集束しない対物レンズからの光線は、対物レンズと結像レンズの間の「無限遠空間」に追加された光学部品に対する感度が比較的低くなります。結像レンズでは残存収差をいくらか補正することはできますが、結像レンズを光学的に中立にして、対物レンズ内で完全に補正する多用途設計に利点があります。図6に示すのは、標準的な正立および倒立蛍光顕微鏡の無限遠光路です。それぞれの顕微鏡図内の白い両矢印は、対物レンズの後部開口部と結像レンズの間にある平行な光路を示しています。

メーカー各社は、それぞれの無限遠系の設計仕様(結像レンズの焦点距離や無限空間の長さなど)に従っています。無限遠補正光学系では、ピント合わせに顕微鏡ステージではなく対物レンズを動かせるため、観察時に試料の繊細な操作が必要な場合に明らかに有利です。ただし、無限遠空間の一番の利点はや偏光アナライザー、フィルター、微分干渉(DIC)プリズムなどの補助的な光学部品を、屈折率や厚みに関して大きな懸念なく追加できることです。平坦で平行な面があるかぎり、追加部品は像の品質にほとんど影響しません。一方で、対物レンズと中間像面の間で集束する有限補正系の光路に光学部品を追加すると、追加部品の厚みや屈折率で変動する、像のずれなどの収差が発生します。

顕微鏡対物レンズの光学補正

有限または無限遠補正光学系のどちらを使用しても、特定のイメージング法の要件に合う対物レンズを判断する際に、システム用に設計された対物レンズの性能基準の組み合わせを考慮する必要があります。通常、対物レンズは光学補正の度合いに基づいて性能カテゴリーに分けられます。前述のように、各種収差の相対的な重要性と作用する性能基準は、対物レンズの使用方法と用途の必須要件によって決まります。光学設計と製造の大幅な技術的進歩のおかげで、従来の対物レンズカテゴリーは最近ではほとんど区別できなくなっていますがるものの、対物レンズの最も一般的な分類は、色収差補正の度合いに基づくものです。記述用語体系の多くは今でも有効で広く使用されており、利用可能な各種の対物レンズを評価する場合、使用されている用語と共焦点用途との関連を理解することは重要です。

色収差はレンズ製造に用いる光学ガラスの分散によるもので、さまざまな分散特性を持つレンズを組み合わせて補正するのが一般的です。従来からより、色収差補正が最小限の対物レンズはアクロマート(図7を参照)として分類され、通常「標準」分散ガラスを使用して作られます。このタイプのガラスは波長が大きいほど屈折率の直線的な低下を示し、クラウンガラスやフリントガラスが含まれます。通常、クラウンガラスは屈折率とも分散がも低いのに対して、フリントガラスは屈折率も分散も高くなっています。古いアクロマート対物レンズでは、これらのガラスタイプのレンズを2枚以上組み合わせて、赤と青の光に焦点を合わせて色収差を補正するとともに、緑の光の球面収差も補正します。現在のアクロマート対物レンズでは、一般的に球面収差の補正が追加されており、像面湾曲もかなり補正されています。像面全体にわたり視野のフラットネスを広げるように補正されている対物レンズは、プランアクロマートと呼ばれます。通常、アクロマート対物レンズは従来型の明視野観察に適しているほか、像面湾曲の追加(プラン)補正により顕微鏡撮影やデジタルイメージングにも適しています。

対物レンズによる色収差補正を向上させるには、スペクトルの一部に対して異常分散するガラスタイプが必要です。赤または青のスペクトル領域で、波長とともに屈折率が直線的に変動しないガラスでは、色収差が相殺されて2つ以上の波長の同時集束が可能です。未補正2次スペクトルの低減に適した光学特性を持つ材料として、最初に見つかったものの1つが結晶蛍石で、アクロマートで取得した像を特徴づける、鋭い端部の緑や紫の縁取りの補正を担います。さまざまな光学ガラスと組み合わせることで、蛍石レンズは3波長(色)の色収差と2波長の球面収差を補正できます。また、このように高度に補正された対物レンズでは、紫外スペクトル領域の透過特性も改善されています。

より近年の技術開発が生み出した新たな光学ガラス形成とレンズ加工機能により、蛍石レンズと同様の分散特性の生産が可能になり、多くのメーカーは最高カテゴリーに匹敵する光学補正力を持つフルオール(fluor)対物レンズを製造しています(図7)。このタイプの対物レンズは、セミアポクロマートと呼ばれることもあります。蛍石レンズは使用されていない場合がありますが、その光学特性により、メーカー各社ではFlPlanFlのように名付けています。現在、このカテゴリーの対物レンズは、複数のイマージョン媒体と併用するモデルなど数多くの構成で入手できます。また、明視野、蛍光、位相差、偏光、微分干渉観察やのほか、一部の共焦点および多光子観察にも適しています。

図7

アポクロマートに分類される対物レンズは、色収差と球面収差を高度に補正する作りになっています(図7を参照)。通常、このタイプの対物レンズは、特定の倍率に対して利用可能な開口数が最も多く、3波長以上で色収差と球面収差の両方を補正します。ほぼ完全な収差補正が行われるアポクロマート対物レンズは、あらゆる顕微鏡観察法に適しています。ただし、使用する観察法に固有の性能要件をすべて考慮する必要があります。アポクロマートでは非常に優れた光学補正が行われるものの、トリプレットやダブレットレンズが使用されるため、開口数やフラットネスなど、他の重要な仕様が犠牲になることがあります。より最近の製造技術では、新たなレンズ研磨技術によってこの妥協点を克服し、極薄レンズを製造できるようになっています。極薄の凹凸レンズを組み合わせることで、紫から近赤外(NIR)までのスペクトル範囲での色収差補正と、より高い透過率の上昇、より高い開口数の増大、拡張されたフラットネスの拡張を実現します。

対物レンズの収差が励起波長と発光波長の両方で同じように補正されていないと、共焦点蛍光観察はかなり制限される可能性があり、複数の蛍光色素を使用する場合や、励起波長と発光波長の差が大きい場合に、要件を満たすのが難しくなります。検出される光子エネルギーを最大にするには、照明スポットとピンホールで結像される検出領域の間の同焦点を維持する必要があります。紫外励起と可視領域発光を組み合わせた蛍光観察法では、アポクロマートクラスであっても、多くの対物レンズは適切な補正を行えません。対物レンズが広範囲の波長に対応できないのを補うために、紫外レーザー光源に光学部品を追加することはできますが、費用がかさみむ上、共焦点システムの操作が相当複雑になります。

高性能の水浸対物レンズとシリコーンオイル浸対物レンズは、ライブセルイメージング研究領域の要件を満たす特殊設計になっています。主な目的は、生理学的媒体内で支持される生きた細胞や組織など、生物試料の共焦点蛍光観察で最適な性能を得ることです。認識しておかねばならないのは、対物レンズの設計に組み込まれている収差補正の度合いに関係なく、設計の動作要件に従わないと対物レンズ外部の光路にさらに収差が生まれ、最高の光学部品の性能が損なわれるおそれがあることです。

図8

特殊なセラミックまたはポリマーノーズコーンを特徴とする、直接液浸または水浸用に設計された対物レンズは、生細胞および生理学的研究に利用できます。これらの研究では、測定やその他の操作のために試料に近付く必要がある場合が多く、カバーガラスを載せて作業することができません。一般に、水浸対物レンズは蛍石カテゴリーに分類され、紫外および赤外スペクトル領域の両方で高い透過性があり、長作動距離仕様と、対物レンズの先端に狭い形状の挿入(水浸)部分を備えています。対物レンズの小さな角度の先端部は、微小電極の装着のために試料に最大限近付けることや、観察時のその他の操作を行うことを目的としています。長作動距離に関して、このタイプの対物レンズでは数ミリメートルのものがあり、試料に近付きやすくなります。多くの水浸対物レンズの水浸部分は、電気的遮蔽と耐薬品性のためセラミックなどの不活性絶縁材料で作られています。各種特性を組み合わせた水浸対物レンズは、生きた試料の共焦点、多光子、その他多くのイメージング法に適しています。

倍率、開口数、光学補正の度合いに加えて、対物レンズの作動距離は、試料の3次元情報を得るための共焦点やその他のデジタル観察法において特に重要です。カバーガラスが必要な対物レンズの場合、作動距離とは、カバーガラスに接した試料面に焦点を合わせるときの、カバーガラス上面とフロントレンズの間の距離をいいます(図9(b))。この距離によって、対物レンズがカバーガラス上部に接するまでに達成可能な、最大焦点浸透深度が決まるため、試料内のさまざまな深さで共焦点イメージングを行う場合に重要になります。したがって、作動距離は試料データを収集可能なz軸に沿った範囲を限定します。

一例として、作動距離0.20 mm(200マイクロメートル)の対物レンズは、対物レンズがカバーガラス上面に接するまで、最大深度200マイクロメートルに焦点を合わせることができます。作動距離は、倍率、開口数、光学補正が高くなるほど短くなりますが、光学設計によって制限内で変動することがあります。高度に補正された対物レンズに必要なレンズの形と数によって、単純な形状の制約があることから、長作動距離とともに高開口数と高度な収差補正を維持するのは制限されます。現在入手可能な多くの対物レンズの仕様では、改良された光学ガラス、レンズコーティング、コンピューター設計機能が利用可能になったことで、目覚ましい性能の向上が見られます。

信号強度は開口数の2乗に比例するという事実が、共焦点顕微鏡に最適な対物レンズの選択に影響して、さまざまな性能係数の相対的な重要性を変える場合があります。スキャンズーム機能を備えた共焦点走査システムを使用する場合、100倍の光学倍率が必要になることはめったになく、高開口数と高度に補正された40倍および60倍の対物レンズを使用する方が適しています。低いスキャンズームを使用して広い視野の画像を取得し、高いスキャンズームを使用して高解像の細胞内構造画像を取得できます。

図9

免疫蛍光イメージングなどの一般的な多くの手法では、本質的に低照度になり、光学系の透過特性が極めて重要です。微細な試料の検出にわずかな光子しか利用できないため、標識された形状の検出性の判断に、蛍光色素の励起または発光の波長における透過率の比較的小さな違いが重要になります。場合によっては、対物レンズの透過性がその他の仕様(視野のフラットネスや収差補正)より大きな意味を持つ場合がありち、追加のレンズやコーティングが必要になることで、重要な波長帯域の光損失が大きくなる可能性があります。ただし、光学技術の進歩によるユニークなレンズ製造技術のおかげで、この透過性の妥協は避けられます。

細胞や分子生物学などの分野の問題に応用される数多くの特殊な手法によって、光学イメージングシステムに対する要求に変化が見られ、対物レンズには特に顕著になっています。生物学的試料の3次元研究に用いる共焦点走査法の劇的な増加は、商用開発製品に大きな影響をもたらしました。そのほかに、レーザートラッピング、多光子励起、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)、赤外線微分干渉観察なども、新たな要件を生み出しています。特殊な手法に付随する数多くのパラメーターでによって明白になったのは、対物レンズの従来の性能基準がは、その他のより重要な仕様を向上させるために少なくとも部分的に犠牲になることがある可能性ことでした。コンピューターを使ったレンズ設計と光学ガラス成形、反射防止コーティング技術の飛躍的な進歩によって、改良された光学系を導入することで、従来の広視野顕微鏡にわずかなトレードオフのみ、あるいは何も犠牲にせずに、多くの新しい要件を満たすことができます。この例としては、高い開口数、増加した作動距離、球面収差の補正環を備えた高性能シリコーンオイル浸対物レンズ、紫外および赤外の透過性が強化された対物レンズが挙げられます。さらに、極薄レンズを使用して製造された対物レンズを使いにより、高い開口数、高い透過性、より広いスペクトル範囲の色収差補正、そして拡張されたフラットネスを、仕様を損なうことなく実現できます。

現在の多くの対物レンズは、設計仕様に従って使用すれば共焦点顕微鏡観察にも適しています。共焦点レーザー走査型顕微鏡を使用した、厚みのある水性試料の高解像研究と正確な3次元イメージングは特に要求が厳しく、特定の基準をすべて満たす対物レンズが必要です。つまり、効率的な蛍光収集のための高開口数、最大の浸透深さを可能にする長作動距離、正確な3次元再構築のための平坦な視野、複数の蛍光色素の同焦点を得るための低い軸上色収差、複数の蛍光画像を精密に記録するための低い横色収差、励起および発光波長の高い透過性です。

寄稿者

Kenneth R. Spring - Scientific Consultant, Lusby, Maryland, 20657.

Thomas J. FellersおよびMichael W. Davidson - National High Magnetic Field Laboratory, 1800 East Paul Dirac Dr., The Florida State University, Tallahassee, Florida, 32310.

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