Life Science Solutions

シリコーンオイル浸対物レンズで高分解能を実現

屈折率の不一致およびその結果生じる軸上収差は、これまで、長時間にわたる高解像での生細胞イメージングに挑戦する研究者を悩ませてきました。生細胞の屈折率(n = 1.38)は、従来のイマージョンオイル(n = 1.52)や水(n = 1.33)よりもシリコーンオイルの屈折率(n = 1.4)に近いため、シリコーンオイル浸対物レンズを使用することで、この不一致が緩和されます。
シリコーンオイルは、浸液として使用した場合、Z軸の単一焦点に光線が到達できない軸上収差を大きく低減します。その結果、特に標本の深度が大きい場合に、生細胞や生きた組織の明るく高解像な3D画像が撮影できます。 さらに、シリコーンオイル浸対物レンズは、特にZ次元で、実際の標本の形態をより高度に反映した形態学的データを生み出します。

シリコーンオイルと、水・オイルとの比較

過去、生細胞イメージングには、主に水浸またはグリセロール浸対物レンズが使用されてきました。水浸の場合、屈折率が低く、所定の倍率において開口数(NA)の多い対物レンズを開発することができませんでした。したがって、得られる画像は、多くのアプリケーションで十分な輝度が確保されていませんでした。しかし、シリコーンオイル浸対物レンズの大きな屈折率によって、今では高NAの対物レンズを製造することが可能になりました。シリコーンオイル浸対物レンズは、全ての標本の深度において、水浸対物レンズと比べて確実に明るくなっています。(図1)。 

図1:60倍対物レンズの明るさ比較

図1:60倍対物レンズの明るさ比較
油浸対物レンズは、表面深度では最も明るい。シリコーンオイル浸対物レンズは、全ての焦点深度で水浸対物レンズよりも明るい。 

シリコーンオイルは、37°Cのインキュベーションチャンバーで使用した場合でも蒸発がほとんどないことを示しています。これによって、研究者は浸漬培地を管理するためにインキュベーターを繰り返し開ける必要がなくなるため、水浸対物レンズと比べた場合に大きな利点となります。開け閉めの繰り返しは、研究者の労力を要するだけでなく、標本を温度やCO2/O2の劇的な変化にさらすことになり、標本の健康状態や生理を変化させ、フォーカスドリフトの原因となる可能性があります。

グリセロールは高吸湿性物質であるため、周辺湿度に対応して濃度が簡単に変化します。濃度が変化するということは、グリセロールの屈折率も簡単に変化するということです。 

このようなばらつきは、グリセロール浸対物レンズを用いた長時間のタイムラプスイメージングを試みる研究者にとって大きな障害となります。ですが、シリコーンオイルの屈折率は、湿度の変化に関係なく一定を保つため、この問題は起こりません。

シリコーンオイル浸対物レンズの不利な点の1つは、従来のオイルよりも粘性が低いことです。低い表面張力と長作動距離により、オイルを最初に対物レンズ上部の正確な位置に配置することが困難な場合があります。しかし、この問題は水浸対物レンズほど重大ではなく、シリコーンオイルのしずくを対物レンズ自体ではなくカバースリップに滴下するなどの簡単な方法で克服できます。また、シリコーンオイル対物レンズは通常、従来の水浸または油浸対物レンズより高価になります。 

シリコーンオイルに適したアプリケーション 

シリコーンオイル浸対物レンズの利点を考えると、胚のマクロ/ミクロ観察、ゼブラフィッシュやその他のモデル生物の発生生物学、ならびに胚性幹細胞や人工多能性幹(iPS)細胞などの再生生物学の分野に特に有用です。神経生物学においては、脳スライスや神経培養の高解像イメージングに有用です。

シリコーンオイル浸対物レンズは、より深部において優れた点像分布関数を生成する、油浸対物レンズを遥かに凌ぐ能力を備えていることから、超解像アプリケーションにも理想的です。また、同じ倍率でより大きなNAを持ち、屈折率の不一致を低減し(図2)、蒸発も少ないため、超解像アプリケーションでは水浸対物レンズより有用です。

シリコーンオイル浸対物レンズの中には、最大波長1600nmの高透過率を持つ特別なコーティングを施したものもあり、多光子イメージングに理想的なレンズとなっています。また、オリンパスSCALEVIEW-A2(n = 1.38)などの透明化溶液と同等の屈折率を持つシリコーンオイル浸対物レンズは、光散乱を抑え、優れた分解能とより深部の撮影を可能にする高度な透明化技術にも適しています。

図2: 屈折率の不一致が標本の形状に及ぼす影響

図2: 屈折率の不一致が標本の形状に及ぼす影響
標本と浸液の屈折率の一致は、正確な3D画像の作成において非常に重要です。

3D生細胞イメージング 

近畿大学(日本)遺伝子工学科准教授である山縣一夫博士と研究チームは、シリコーンオイル浸対物レンズを使用して、胚発生における接合子のタンパク質、DNAその他の分子および個別の細胞の鮮明な3D蛍光画像の撮影に成功しました。約4日間にわたるマウス胚の接合子から胚盤胞ステージまでのin vitroでの発生に対する高コントラスト3D生細胞イメージングが、シリコーンオイル浸対物レンズ(UPLSAPO60XS)を使用して行われました。 

山縣博士と研究チームは、タイムラプス3D生細胞イメージングに60倍のシリコーンオイル浸対物レンズを使用しました。以前博士のチームは、かつて生細胞イメージングの深部観察の標準であったオイルレンズや水浸対物レンズを使用していました。シリコーンオイル浸対物レンズに切り替えたことで、チームは核内の表面から内部領域まで、また1つの接合子から胚盤胞ステージまで、蛍光標識されたメチル化DNA(mCherry-MBD-NLS)を見ることができました(図3)。 

図3: 着床前の発生におけるMethylRO胚の生細胞イメージング

図3: 着床前の発生におけるMethylRO胚の生細胞イメージング
核内のメチル化DNA(mCherry-MBD-NLS)の約4日間の変化が観察されました。オリンパスシリコーンオイル浸対物レンズUPLSAPO60XSを使用して撮影された画像。画像提供:山縣一夫博士、近畿大学生物理工学部遺伝子工学科准教授

山縣博士の研究は、長時間にわたる深部の高コントラスト3D生細胞イメージングにシリコーンオイル浸対物レンズが不可欠であることを示しています。山縣博士と研究チームは、長期観察において、一貫して焦点が合い、温度変化に影響されない画像を撮影することに成功しました。 

北海道大学大学院医学研究科解剖学講座の内ヶ島基政博士と渡邉雅彦博士の両名は、60倍の油浸対物レンズを用いてマウスの脳切片画像を撮影し、60倍のシリコーンオイル浸対物レンズ(Olympus UPLSAPO60XS2)を用いて撮影した画像と比較しました。

X-Z


               
X-Y


UPLASAPO60XO (NA:1.35, W.D.:0.15 mm)

UPLASAPO60XO (NA: 1.35, W.D.: 0.15 mm)UPLASAPO60XO, Z = 5 μmUPLASAPO60XO, Z = 35 μm

Z = 5 μm

Z = 35 μm、スケールバー:50 μm


UPLASAPO60XS2(NA:1.30, W.D.:0.30 mm)

UPLASAPO60XS2 (NA:  1.30, W.D.: 0.3 mm)UPLASAPO60XS2, Z = 5 μmUPLASAPO60XS2, Z = 35 μm

Z = 5 μm Z = 35 μm

図4: マウスの大脳新皮質切片の深部組織画像の比較

60倍の油浸対物レンズと60倍のシリコーンオイル浸対物レンズで撮影した、透明化されたマウスの大脳新皮質切片の深部組織画像の比較。北海道大学大学院医学研究科解剖学講座の内ヶ島基政博士と渡邉雅彦博士による画像提供。

従来の油浸対物レンズとシリコーンオイル浸対物レンズで撮影した、マウスの新皮質からのX-Y画像。両対物レンズセットで明視野蛍光画像が撮影されていますが、シリコーンオイル浸対物レンズで撮影した場合の方が、35μmの深さのX-Y画像が明るく、分解能が高くなっています(図4)。35μmの深さで撮影された画像における明るさの差は、油浸対物レンズの球面収差によるものであり、対物レンズに使用したオイルの種類によって屈折率(1.52)と透明性レンダリングソリューション(1.38)が異なることに起因して生じます。ここで使用されているシリコーンオイル浸対物レンズの高NAと屈折率の不一致の低減により、透明化された試料の深部組織観察において優れた結果が得られました。

図5: マウスの胎盤全体での細胞の観察(連続断層撮影)

図5: マウスの胎盤全体での細胞の観察(連続断層撮影)
理研脳科学総合研究センター細胞機能探索技術研究チーム、阪上—沢野朝子先生、宮脇敦史医学博士による画像提供

理研脳科学総合研究センター細胞機能探索技術研究チームの阪上—沢野朝子先生と宮脇敦史医学博士による研究で、40倍のシリコーンオイル浸対物レンズ(UPLSAPO40XS)を使用して、マウスの胎盤全体の深部組織の観察が行われました。

色度変化が小さい

シリコーンオイル浸対物レンズと倒立型共焦点レーザー走査型顕微鏡を用いて、胎盤内の細胞が観察されました。博士らは、組織片を作製する必要なしに、胎盤内の形態学的に無傷の細胞の高解像観察を行いました。また、シリコーンオイル浸対物レンズは、色収差が小さくなるように設計されているため、ユビキチンベースの細胞周期標識(Fucci)(S/G2/M-緑、G1-赤)と核(DAPI-青)の共局在を高精度に観察することができました(図5および6)。 

図6: 胎盤細胞の統合画像

図6: 胎盤細胞の統合画像
理研脳科学総合研究センター細胞機能探索技術研究チーム、阪上—沢野朝子先生、宮脇敦史医学博士による画像提供

名古屋大学ERATO東山ライブホロニクスプロジェクト光技術グループの栗原大輔博士が率いる研究グループは、最近、植物の接合子の胚発生過程の生細胞イメージングに成功しました。この研究では、特殊な媒体と新しいマイクロデバイスの開発によって、植物の接合子の分裂および成長の長期生細胞イメージングが可能となりました。使用機器には、シリコーンオイル浸対物レンズ(UPLSAPO30XS)が含まれていました(図7)。初期胚(4細胞ステージ)から後期胚まで67時間にわたり、胚発生プロセスがリアルタイムで安定的に観察されました。 

図7: シリコーンオイル浸対物レンズを用いたマイクロデバイスイメージングを描いた図

図7: シリコーンオイル浸対物レンズを用いたマイクロデバイスイメージングを描いた図
電動XYステージを使用して、多点タイムラプス画像が撮影されました。

新たに開発された胚珠培養システムと、胚珠内で複数の細胞の層に覆われた胚の高感度イメージングが可能な顕微鏡を組み合わせることにより、胚発生に対する世界初の長期リアルタイム観察が可能となりました。この研究に選ばれた顕微鏡システムは、30倍のシリコーンオイル浸対物レンズ(UPLSAPO30XS)を搭載したオリンパスIX83フル電動倒立型顕微鏡でした。この対物レンズは、広視野を保った深部の高解像イメージングに求められる1.05という高い開口数と0.8mmの長作動距離を備えています。 

まとめ

シリコーンオイル浸対物レンズは、高NAと長作動距離を提供し、温度変化に影響されない安定した長期の高解像イメージングを可能にします。従来のレンズを凌ぐ球面収差の大幅な改善により、シリコーンオイル浸対物レンズは、発生/再生生物学、神経生物学、微生物学その他の様々な分野で行われる多岐にわたる3D生細胞および深部組織イメージングアプリケーションに理想的なレンズといえます。顕微鏡システムにシリコーンオイル浸対物レンズを統合することにより、研究者たちは、透明度、分解能、再現性が最適化された完全な生細胞イメージングシステムを構築することができます。

*この記事は、Photonics Spectraに公開されたものです。

著者
Andrew Samuelsson氏
サイエンティフィックソリューションズ事業部
Olympus Corporation of the Americas

このページはお住まいの地域ではご覧いただくことはできません。

関連製品
スーパーアポクロマート対物レンズ

UPLSAPO-S/UPLSAPO-Wシリーズ

  • 可視から近赤外域までの球面収差、色収差を補正したスーパーアポクロマート対物レンズでUVから近赤外域までの高い透過率を実現。
  • 生体細胞の屈折率に近い浸液を使用するシリコーン浸、水浸対物レンズをラインナップし、ライブイメージングで効果を発揮。

This site uses cookies to enhance performance, analyze traffic, and for ads measurement purposes. If you do not change your web settings, cookies will continue to be used on this website. To learn more about how we use cookies on this website, and how you can restrict our use of cookies, please review our Cookie Policy.

OK