生命科学・医学研究において顕微鏡は重要な研究ツールの1つです。顕微鏡はミクロの領域を高精細に観察できますが、その分観察視野が狭く観察標本のどの位置を観察しているかを把握することが困難とも言えます。そのため、通常接眼レンズを有する光学顕微鏡では、まず目視で標本内の観察位置をミクロ観察光路上に概ね合わせ、フォーカスを合わせます。その後、顕微鏡の接眼レンズを通して観察したい位置の詳細な探索を行い、観察位置を決定します。この一連の作業は観察前に必要な準備工程ですが、顕微鏡の操作に習熟していない場合は、この準備に多くの時間を費やしてしまう場合があります。
APX100のスマートサンプルナビゲーターは次の作業を自動化し、観察前の準備にかかる時間および手間の解消に貢献します。
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図1.APX100を用いたワークフローの効率化
観察位置をすばやく見つけるためには標本の全体像をとらえたマクロ画像が役立ちます。APX100は独自の広視野なマクロ光学系により瞬時にマクロ画像を取得します。 一般的に広視野の画像を取得するためのマクロ光学系はテレセントリック性が悪い場合が多く、例えばウェルプレートのマクロ画像では視野周辺のウェルの形状が歪みウェルの壁面がマクロ画像に写ってしまうため、ウェル底面が判別しづらくなる問題がありました。視野内全てのウェルが歪まないようにするためには、テレセントリック性を良くする必要が有りますが、その場合視野が狭くなります。そのため、サンプルホルダ―に載置されたウェルプレート全体が撮影されたマクロ画像を取得するには、数回に分けて画像を撮影し、撮影した画像を貼り合わせる必要があります。APX100では図2に示すようにマクロ光学系に大口径レンズを採用し、テレセントリック性が良く広視野なマクロ光学系を実現しました。マクロ光学系の倍率は約0.07倍であり、わずか2回の撮影でサンプルホルダーに載置されたあらゆる標本の全体が撮影されたマクロ画像を取得することができます。 | 図2.マクロ光学系 |
スマートサンプルナビゲーターは、AI(Deep Learning)を用いた標本認識により、取得したマクロ画像の中から標本の位置を自動で特定し、認識した標本がミクロ観察光路上へ来るようにステージを移動させます。その際、使用する容器に応じた高さに対物レンズを調整します。このAIを用いた標本認識はスライドガラス用サンプルホルダー使用時に、載置された標本に対して実施されます。
AIは学習と推論の2つのフェーズに分けられます。推論を行うためには、最初に教師画像を学習させる必要があります。スマートサンプルナビゲーターの標本認識機能には教師画像としてさまざまな組織標本を用いて学習したデータを備えており多くの標本に対応できます。また、識別するクラスとしては、HE染色のようなコントラストの高い組織標本だけでなく、例えばマウスの脳組織切片を蛍光色素で染色したような無彩色の組織標本や、カバーガラスも含みます。
推論は、撮影したマクロ画像を図3に示す前述の学習済みデータを備えたAIネットワークに入力することでマクロ画像内の組織及びカバーガラスの検出を行います。APX100では図に示すように標本認識結果を緑枠で表示します。
図3.標本認識AIネットワークと標本認識結果
スマートサンプルナビゲーターは次の機能により更に快適な観察をサポートします。
図4.cellSens APEXのGUI
図5.標本認識結果を用いたオーバービュー画像取得範囲の指定
図6.サンプルホルダーと対物レンズが衝突する危険のある領域の表示
標本を観察するには、顕微鏡の視野に標本が入るようステージを移動させ、対物レンズの高さを調整し、観察位置を探索するといった作業を経て、ようやく観察を開始できます。
スマートサンプルナビゲーターは標本を設置してからワンクリックでミクロ観察光路上に標本を移動させ、対物レンズの高さを調整します。このクリック後の一連の動作は自動で行われ、約10秒で動作が完了します。そして取得したマクロ画像でによって標本の全体像を確認把握できるため、素早く観察したい位置へステージを移動させて、観察を開始することができます。
スマートサンプルナビゲーターによって顕微鏡観察までの準備時間を短縮し、研究に集中する時間を確保することができます。
柴田宗拓 | 小島慶太 |
株式会社エビデント 開発部門 電気開発
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