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Confocal Microscopes (Japanese text only)

特集:裾野が広がる共焦点顕微鏡 - 共焦点顕微鏡の概要


1.はじめに

光学顕微鏡の歴史は400年の長きにわたっており、1590年のヤンセン父子による発明に始まり、ロバート・フックによる細胞の発見(1665年)、コッホによる結核菌発見(1882年)など、人間の持つミクロ世界への探究心と相まって、生命科学の発展に多大な貢献をしてきた。その後も、フリッツ・ゼルニケ(Frits Zernike)による位相差顕微鏡の発明(1935年)、当時マサチューセッツ工科大学の学生であったマービン・ミンスキー(Marvin Minsky)による共焦点顕微鏡の発明(1957年)などが続き、光学顕微鏡の発展を支えてきた。
光学顕微鏡というと、古典的なイメージや、光分解能が電子顕微鏡に及ばないという印象を持たれがちであるが、光を用いることにより、試料の持つ情報を非侵襲で比較的容易に取り出せるという大きなメリットを有しており、将来においてもその重要性はますます増大していくものと期待されている。

このような流れの中で共焦点(コンフォーカル)顕微鏡は重要な地位を占めている。医学研究分野ではポストゲノムの動きと相まって、2008年ノーベル賞で話題になった緑色蛍光タンパク質(GFP:Green Fluorescent Protein)を用いた生命機能解析に用いられ、その高い分解能や定量性により研究に必須な機器となりつつある。
また産業用途においても、微細化の一途を辿る半導体の検査などに用いられ、高精度な表面微細形状測定(段差・線幅・粗さ)に有効な機器として定着している。共焦点顕微鏡については、本特集の各記事に加え、数多くの優れた出版物、論文※1~※4が存在するが、ここでは、その原理と特徴について全体を俯瞰できるようポイントを絞って解説する。


2.共焦点顕微鏡の原理

共焦点顕微鏡の原理かつ最大の特徴として、共焦点光学系が挙げられる。図1に共焦点光学系と通常の光学系を示すが、共焦点光学系ではピンホール1(点光源)を試料に投影し、さらに試料の像位置にピンホール2と検出器(多くは光電子増倍管)を配置する。ここで、ピンホール1(点光源)・試料・ピンホール2(像位置)がすべて共役位置にあることから共焦点(コンフォーカル)光学系と呼ばれる。ピンホール1は必ずしも必要ではなく、近年の共焦点レーザー顕微鏡では、シングルモードファイバーのコア部分やLD(Laser Diode)の発光点がこのピンホールを兼ねている。
1957年にミンスキーが発明※6した当時はレーザー光源がなかったため、通常のランプ光源に続いてピンホール1を配置する構成となっているが原理的な違いはない。その後、1969年にレーザーが共焦点顕微鏡に用いられ、1977~1980年にかけてオックスフォード大学のコリン・シェパード(C. J. R. Sheppard)、トニー・ウィルソン(Tony Wilson)らにより共焦点顕微鏡に関する結像特性の研究が進み※2、1985年には市販品が発売されて今日に至っている。

図1 通常の顕微鏡光学系と共焦点光学系の比較

図1 通常の顕微鏡光学系と共焦点光学系の比較


3.共焦点顕微鏡の特徴


3-1.共焦点顕微鏡に用いられる光源

現在、共焦点顕微鏡に用いられる光源のほとんどはレーザーであり、主な理由は以下のようなものである。

  1. 点光源と見なすことができ、位相がそろっていて干渉性や指向性も高く、理論的な回折限界付近までビームを絞り込むことができる。

  2. 輝度が従来の光源(水銀ランプなど)に比べて高く、出力も安定している。

  3. 波長帯域が狭く、一般には直線偏光であり、音響光学素子等による高速の強度変調が可能である。

元来、共焦点光学系はレーザーを意識せずに考案されたもので、ミンスキーの発明からしばらくの間は大きな進展はなかった。しかし、レーザーの出現によって状況が一変し、共焦点顕微鏡はレーザーにより実用化されたといっても過言ではなく、今後の進化もレーザーが大きな鍵を握っているといえよう。


3-2.共焦点顕微鏡の結像特性

共焦点顕微鏡は図1に記載した共焦点光学系を基本としており、下記のように、通常の顕微鏡と比べてコントラストや分解能が向上するという特徴を有している。

  1. 照明が点状であるため試料に隣接する横方向からの迷光が生じない。

  2. 焦点位置だけの情報がピンホールを通過して検出器に到達し、焦点位置以外の光はピンホールでカットされるため、深さ方向(Z方向)に分解能が生じ、光学的断層像を得ることができる。これは通常の顕微鏡では実現できないことである。

  3. 特に、蛍光共焦点顕微鏡の場合、照射する光と試料からの蛍光はインコヒーレントなため、得られる点像強度分布(PSF:Point Spread Function)は、照明系と検出系各々のPSFの積(いわゆる2乗特性)で決まる。その結果、通常の顕微鏡よりもPSFがよりシャープになり、XYZ分解能が通常顕微鏡よりも向上する(なお、反射型の共焦点顕微鏡ではコヒーレンスを考慮し、試料の位相も含めた振幅で議論するため、PSFや分解能は異なってくる)。

ここで、図2に共焦点効果の概念図を、図3に通常顕微鏡と共焦点顕微鏡の実際の画像比較を示す。3.の分解能については、蛍光観察時という前提のもと、図4に通常顕微鏡と共焦点顕微鏡の点像強度分布(PSF)のシミュレーション比較を、表1には分解能の数式比較を示す※3
また、これらはピンホール径が無限小という理想的な場合であり、ピンホール径を考慮した場合の計算式は文献※5を参照されたい。これ以外にも、文献※1~※4には共焦点顕微鏡に関する結像特性の研究が数多く記載されており、今後、共焦点顕微鏡を発展させる上で基礎知識として必要になるであろう。

図2 共焦点効果の概念図

図2 共焦点効果の概念図

図3 通常顕微鏡と蛍光共焦点顕微鏡の画像比較

図3 通常顕微鏡と蛍光共焦点顕微鏡の画像比較

図4 通常顕微鏡と蛍光共焦点顕微鏡の点像強度分布(PSF)比較

図4 通常顕微鏡と蛍光共焦点顕微鏡の点像強度分布(PSF)比較

表1 通常顕微鏡と蛍光共焦点顕微鏡の分解能比較

表1 通常顕微鏡と蛍光共焦点顕微鏡の分解能比較※3 (ピンホール径は無限小と仮定)

3-3.共焦点顕微鏡の像形成

多くの特徴を有する共焦点顕微鏡であるが、その根幹である共焦点光学系とは基本的に1点照明かつ1点検出であり、そのままでは画像が形成できない。そこ で、照明を固定したまま試料(ステージ)をXY面内で2次元走査するか、試料を固定したまま照明(ここではレーザービーム)を走査することで、各点の情報 を集めて画像化することになる。例として、TVモニターの走査線による画面形成方法を想像すると理解しやすい。
図5に走査による像形成の概念図を 示すが、実際の2次元走査方法として試料(ステージ)を走査することは、走査速度や機械的安定性の理由から困難なため、ガルバノミラーなど、高速で光を偏 向可能な素子を用いて、照明するレーザービームを走査する方法が一般的である。なお、Z方向にはステッピングモーターやピエゾ素子を用い、2次元走査を終 えるごとに、対物レンズもしくはステージを逐次移動させていく。
図5 レーザービーム走査による画像形成概念図
図5 レーザービーム走査による画像形成概念図

ここで重要なのは、共焦点顕微鏡の画像は各点の集合体であり、デジタルそのものであるということである。昨今、顕微鏡のデジタル化が叫ばれているが、共焦点顕微鏡はまさしくデジタル顕微鏡の先駆けという位置付けにある。さまざまな画像処理により、精度の高い定量解析やフーリエ解析による分析、さらには複数の画像から3次元構造の再現を容易に実現できる。


4.共焦点顕微鏡の光学系構成

共焦点顕微鏡の像形成にあたって、照明するレーザービームを走査することを述べたが、それを実現するために共焦点顕微鏡内部の光学系にはさまざまな工夫が施されている。
図6に概略を示すが、まず、コリメーターレンズによって整形されたレーザービームを2次元走査するための光偏向器(主にガルバノミラー)に入射させる。ここで重要なポイントは、瞳投影レンズと呼ばれるリレーレンズを用い、ガルバノミラーと対物レンズの瞳(射出瞳)を共役位置に配置することである。ガルバノミラーが共役位置にないと、視野周辺を走査するためのレーザービームが正しい位置や角度で対物レンズに入射しなくなり、周辺が暗くなったり、画像自体が得られない場合がある。

さて、ガルバノミラーによって偏向されたレーザービームは瞳投影レンズ、結像レンズを経て対物レンズに入射し、試料上に集光される。試料から戻ってきた光(蛍光または反射光)は、レーザービームが入射した光路を逆に辿って光路分離素子まで戻る。ここで試料からの光はレーザービームと分離され、検出光学系へと入射する。検出光学系には集光レンズが設けてあり、集光レンズの焦点位置にはピンホールが設置されている。そして、このピンホールを通過した光のみが検出器(光電子増倍管)によって検出される。これまで説明したとおり、このピンホールは対物レンズの焦点位置と共役な関係にあり、焦点位置のみの情報が検出される。

図6 共焦点顕微鏡の光学系概略

図6 共焦点顕微鏡の光学系概略


5.ほかの共焦点顕微鏡

ここまで、主にレーザー走査型の共焦点顕微鏡について説明してきたが、従来からあるニポウ型ディスクを改良してマルチビーム走査を実現し、高速の共焦点画像取得を可能にしたものや※7、ピンホールの代わりにスリットを用い、レーザーではなく水銀ランプを光源に用いた共焦点顕微鏡も登場してきている。しかしながら、対物レンズによっては最適な分解能が得られない場合や、スリットによるZ分解能低下など、システム性や性能のトレードオフの観点から使い分けが必要となっているのが現状である。


6.共焦点顕微鏡の今後

共焦点顕微鏡はその高い分解能やデジタル化による解析機能により、単に綺麗にイメージングができる機器ではなく、高精度で高機能な“測定機”へと進化している。近年では分光タイプや高速タイプも市販され、光を表すパラメーター(XYZ、強度、波長、位相、時間など)のほとんどは解析可能になっている。そのため、今後は技術視点に加えて、広くアプリケーションとの組み合わせで考えていくことが重要であり、産業分野では測定機としての信頼性を究極にまで高め、非接触測定機としての国際標準体系整備が、今後の方向性として挙げられよう。

生命科学分野では、タンパク質・細胞レベルの機能解析に加えて、組織や小動物へと観察対象が広がってきており、今まで以上に厚みを持った試料への対応(例:多光子励起顕微鏡による組織深部観察※8)やレーザー照射方法を組み合わせた超解像技術、さらには非線形光学現象を利用した技術の開発が進むと思われる。これらの研究の発展により、暮らしをより豊かにする産業機器の発明や、疾患の原因解明・効果的な創薬の開発へとつながれば望外の喜びである。


参考文献

※1 J. Pawley: Handbook of Biological Confocal Microscopy, 3rd edition, Plenum Press(2006)

※2 T. Wilson and C. J. R. Sheppard: Theory and Practice of Scanning Optical Microscopy, Academic Press(1984)

※3 G. Kino: Confocal Scanning Optical Microscopy and Related Imaging Systems, Academic Press(1996)

※4 藤田晢也監修・河田聡編:「新しい光学顕微鏡第1 巻レーザ顕微鏡の理論と実際」、学際企画(1995)

※5 T. Wilson and A. R. Carlini: “Size of the detector in confocal Imaging systems,” Optics Letters, Vol.12, No.4, pp. 227~229(1987)

※6 M. Minsky: U.S. Patent 3013467

※7 原口徳子ほか:「講義と実習生細胞蛍光イメージング」、共立出版(2007)

※8 斉藤荘芳、横井英司、 阿部勝行:“2 光子励起顕微鏡専用対物レンズの開発”、細胞、Vol.40、No.4、pp. 41~45(2008)


出典情報

技術月刊誌 O plus E
2009年6月 Vol31 「特集 裾野が広がる共焦点顕微鏡 総論:共焦点顕微鏡の概要」
弊社 阿部 勝行 著


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