現在の顕微鏡システムは複雑なシステムを高い精度で捉えることができるため、生物学的メカニズムの理解を目指すライフサイエンス研究者にとって欠かせないものになっています。ただし、他の研究用ラボ機器と同様に、再現性のあるデータを得るためには、顕微鏡も安定した性能を発揮しなければなりません。
このことは、顕微鏡と画像解析が複雑になるにつれて課題となります。
このブログでは、顕微鏡の性能をモニタリングすることの重要性と、分析ツールが結果に偏りをもたらす問題を特定するのにどのように役立つか説明します。
実験データに偏りが入り込むメカニズム偏り
偏りはさまざまな要因から実験にたやすく紛れ込む可能性があります。形態解析を例にとってみましょう。細胞構造の変化を測定しようとする場合、画像を取得して形態学的な差異を測定する必要があります。たとえ顕微鏡が本来の性能を発揮していたとしても、サンプルの前処理や生物学的なばらつきによって、画像やその後の結果に偏り偏りが生じる可能性があります。これは正確で再現性のあるデータを取得する上で課題となります。
ここで、未校正の顕微鏡を使ってこのタスクを行う場合を考えてみましょう。顕微鏡自体から画像にさらなる偏りがもたらされ、それに続く測定も正確さと精度に欠けることになります。その結果、同じ実験をもう一度行っても、同じデータセットを再生成するのは困難です。
実験データを公開しようとしている研究者にとって、これは重大な問題です。例えば、査読者から実験の再現を要求されたとしましょう。校正済みの装置がなければ、同様の結果を得るのに悪戦苦闘するおそれがあります。
サンプルの生物学的ばらつきを抑えるためにできることはほとんどありませんが、顕微鏡の性能をモニタリングして、イメージングと測定に偏りをもたらしている箇所を明らかにする方法はあります。まず、定量的測定で見られる誤差と偏りについて検討した後、これらのオプションについても詳しく説明たいと思います。
定量的測定の誤差
顕微鏡ではさまざまな定量分析を行うことができます。ほとんどの定量分析には、画像内の蛍光強度または空間的変化のいずれかの測定と比較が含まれます。
どの定量的測定にも、ある程度の誤差や偏りは見られます。誤差の原因はサンプルまたは顕微鏡によってもたらされ、測定の不正確さや不精密さとして現れます。不正確さは一貫して不正確な測定を生み、不精密さは繰り返し測定のばらつきを助長します。どちらも再現性あるデータの敵です。
かつて多くの画像解析研究では、定量分析を手動測定に頼っていました。それがこの20年間で、バイオインフォマティクス画像解析や、測定の自動化とスループットの大幅な増加を可能にするAIプログラムなどのソフトウェアツールを重視するようになってきました。これによって、定量的顕微鏡実験で生成されるデータ量は新たな高みへと到達しました。
研究者が一回の実験で作成する画像はますます多くなり、それらの画像を複雑なモデルに入力して解析し、関連情報を抽出するため、最大限に高品質で安定した画像を使って実験を開始することが欠かせなくなっています。イメージングが数日間にわたって行われる場合、その間に性能が不安定な顕微鏡では、データに大きな矛盾が生じることになります。どんなに高性能な解析ソフトウェアを使っても、データの一貫性と信頼性に最も影響するのは画像自体のグラウンドトゥルースなのです。
誤差を生み出す可能性があるのは、スループットの向上や解析ソフトウェアばかりではありません。今日の顕微鏡システムは、光学的、機械的、電気的に様々なコンポーネントを備え、ますます複雑になっています。このような装置では、複雑なコンポーネントの数が増えるにつれて、ミスアラインメント、故障、不具合を起こす可能性可能性も高くなります。
顕微鏡システムの複雑さにより、データにさらに偏りが生じる可能性がある場合、顕微鏡の性能をモニタリングして結果の一貫性を確保するにはどうすればよいでしょうか。
顕微鏡性能をモニタリングするためのツールとサポート
最初に顕微鏡システムを購入するとき、エビデントをはじめとする大手メーカーは、厳密に定義された性能の基準をクリアした状態で出荷します。設置時には、正確な手順に従って顕微鏡が工場出荷時の基準を確実に満たすようにします。
時間の経過とともに、一部の性能測定基準が許容範囲を超える場合もあります。そのため、顕微鏡の性能分析は非常に重要です。購入後、1日、1か月、1年と経過していても、、顕微鏡の性能が安定していることを確認する必要があります。
従来、顕微鏡の性能を知るには、校正ツールキットで透過率に対する出力強度の校正曲線を作成する必要があり、手間のかかる作業でした。また、特定のパラメーター(分解能や均質性など)のトラブルシューティングは、特定の故障を検出するために異なるトラブルシューティングツールを必要とし、これまでは困難でした。
ビルトイン顕微鏡性能モニタリングツール
現在は、顕微鏡の性能モニタリングにかかる苦労を軽減する、より簡単で迅速なソリューションがあります。次のような例を考えてみましょう。長期にわたるタイムラプス観察中に、一部の顕微鏡システムは性能が安定しないとします。そのため、品質にむらのあるタイムラプス画像になります。
最新のソリューションの1つであるFLUOVIEW™ FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡は、このような実験に対応する安定したレーザー出力を備えています。光学レーザー強度のモニタリングおよびフィードバック制御システムをスキャンユニットに装備し、長期にわたるタイムラプス研究でも安定した励起強度を提供します。これを示しているのが下のタイムラプス画像です(図1)。
図1:FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡で撮影したタイムラプス画像。ナチュラルキラー(NK)細胞株KHYG-1(緑)が、セツキシマブ(青)で標識されたHT-29腫瘍細胞を攻撃・殺傷しながら形を変えている。ヨウ化プロピジウム(PI)の取り込み(赤)は細胞死を示す
外部の顕微鏡性能モニタリングツール
性能モニタリングのためにビルトイン顕微鏡ソリューションに加えて、顕微鏡ユーザーやメーカーが同様に顕微鏡装置の性能を確認するのに役立つ外部ソリューションも多数あります。Argolight社は、顕微鏡の品質管理ソリューションを専門に扱っています。同社は、顕微鏡性能の軽微な変動さえ検出可能な各種の品質管理用スライドと、付随するソフトウェアを設計しています。
Argolightの性能解析ソリューションには、スライドとマイクロウェルプレートの形状があります。蛍光顕微鏡をはじめ、さまざまな顕微鏡システムの品質管理に使用できます。顕微鏡の性能に不安のある研究者にとって、これらのソリューションは貴重な出発点となります。
図2:各Argolight HMスライドには、16種類の蛍光パターンのうち2つが組み込まれています。左の画像:画像平坦性を検査するためのリングパターンの視野。右の画像:分解能を検査するための間隔が徐々に広がる(垂直)線。
どのような仕組みなのでしょうか?
要するに、スライドにはマトリクス状の焦点を持つ、高度に設定された蛍光パターンが埋め込まれています(上の図2を参照)。これらのスライドをイメージングし、画像をソフトウェアで解析します。特に、顕微鏡性能の偏りを検出するとともに、パラメーターごとの偏りの度合いも検出できます。ユーザー定義の許容範囲を超える値があれば、簡潔なエラーレポートの形式でメーカーやコアファシリティに送信できます。
顕微鏡のトラブルシューティングを合理化し、安定稼働を維持
Argolightなどによる顕微鏡の迅速な品質管理ソリューションは、ユーザーとメーカーのどちらにとっても利点があります。例えば、顕微鏡に問題が見つかったとします。当社のサービスエンジニア専門チームにエラーレポートを送ることで、問題を解決するためのスタートを切ることができます。このレポートがあれば、チームは不具合が疑われる特定のコンポーネントをすぐに突き止め、問題解決に役立つ、より関連性のある具体的な質問をすることができます。
別々の分析ツールからの情報を合わせるのではなく、1つのレポートで顕微鏡性能全体の概要を確認できれば、ユーザーの時間と費用の節約になります。サービスエンジニアが問題を迅速に特定することで、ユーザーは作業に戻れます。実際、簡潔なレポートにまとめられた詳細な概要によって、エンジニアがリモートで問題を解決できる可能性が高くなるので、ユーザーは最小限の装置ダウンタイムで研究に戻ることができます。
私たちはこれまでに、万能なトラブルシューティング装置の恩恵を受けたたくさんのお客様を見てきました。これらの装置のおかげで、信頼性の高いデータ収集、顕微鏡からの偏り除去、長期的なシステム性能変化の解明につながり、定量的な顕微鏡観察からさらなる成果を得ることができます。
定量分析のための顕微鏡性能のトラブルシューティングをご希望ですか?エビデントのカスタマーサポートチームにお問い合わせください。
Argolight社のソリューションについて詳しくは、こちらから同社にお問い合わせください。