顕微鏡観察の基本は、標本の像を眼で見ることから始まる。
レンズの性質について学習する前に、ヒトの眼の構造と識別能力について学習しておこう。
図1 眼の構造
眼の構造
ヒトが物を見るときは、角膜とレンズ(水晶体)で入ってきた光を屈折させ、網膜上に物体の像を結ぶことによって、物の形や色を認識する。
| 図2 眼の2点識別能力(分解能) |
コラム:虫眼鏡による物体の見え方
虫眼鏡は、凸レンズ(正レンズ)を通し、小さい物体を拡大して観察する道具である。物体を凸レンズの焦点距離(ページ下 2-2.正レンズと負レンズの性質 参照)の内側に置くことで、小さいものが明視距離(250mm)に虚像(ページ下 2-3.正レンズによる結像 参照)として大きく見える。虫眼鏡を通して見る物体の大きさは視角に依存し、視覚が大きいほど物体や像が大きくみえる。
図3 虫眼鏡を通して見る物体の大きさ
(肉眼で見たリスと虫眼鏡で見た蟻は明視距離で同じ大きさに見える)
レンズには、正レンズ(凸レンズ)と負レンズ(凹レンズ)の2種類がある。
それぞれのレンズと光の関係について説明する。
正レンズ(凸レンズ)
ふちよりも中心のほうが厚いレンズを「正レンズ」、または「凸レンズ」という。
正レンズでは、光軸(レンズ曲面の中心をレンズに垂直に通る線)に平行な光はレンズによって屈折し、光軸上の1点に集まる。この点を「焦点」という。正レ
ンズの焦点はレンズの前後に1つずつあり、それぞれ、「前側焦点」、「後側焦点」という。また、レンズの中心から焦点までの距離を「焦点距離」といい、前
後の焦点距離は等しい。なお、単に「焦点距離」というときは、後側焦点距離のことを指す。
一般的にレンズを含めた作図をする場合、便宜上HとH´の距離を0にすることが多い。
図4 正レンズと光の関係
負レンズ(凹レンズ)
中心よりもふちが厚いレンズを「負レンズ」、または「凹レンズ」という。
負レンズでは、光軸に平行な光はレンズによって屈折し、広がる。このとき拡散した光は、光軸上の一点(右図のF'B)から発せられているように見える。負レンズの焦点といった場合、この見かけ上の光の出発点を指す。
図5 負レンズと光の関係
正レンズを通してできる物体の像の大きさと位置は、レンズと物体との距離およびレンズの焦点の位置によって決まる。
物体が正レンズの前側焦点よりも遠くにあるときに、レンズによって形成される像を「実像」といい、物体が正レンズの前側焦点よりも近くにあるときに形成される像を「虚像」という。
実像
物体(像AO)を正レンズの前側焦点の外側に置くと、レンズ側に上下左右が反対になった倒立の実像(像A'O')が形成される。
実像は、物体がレンズから離れるほど小さくなり、物体がレンズに近づくほど大きくなる。
実像は、スクリーン、フィルム、CCD上に投影させることができる。
図6 正レンズがつくる実像
虚像
物体(像AO)を正レンズの前側焦点の内側に置くと、物体より大きい像がレンズを通して物体側にできる。正レンズによってできる虚像(像A'O')は正立である。
虚像は、スクリーンを置いても像を投影することはできないが、レンズを通して眼で見ることができる。
図7 正レンズがつくる虚像
図8 正レンズがつくる虚像
コラム:単レンズによる拡大の限界
一般に焦点距離の短い正レンズでは、視角が大きいほど、虚像の大きさは大きくなる。
| 図9 単レンズの厚さによる拡大率の違い |
顕微鏡は、2枚の正レンズを組合わせて標本を拡大して見る装置である。標本に近いレンズを「対物レンズ」と呼び、眼に近いレンズを「接眼レンズ」と呼ぶ。
顕微鏡のレンズは、対物レンズによってつくられる倒立の実像(中間像または一次拡大像と呼ぶ)を、接眼レンズでさらに拡大している。観察者は、この接眼レンズで拡大された虚像を見ていることになる。 このように、顕微鏡では、対物レンズで拡大された像をさらに接眼レンズで拡大するので、顕微鏡の総合倍率は、対物レンズの倍率と接眼レンズの倍率を掛け合 わせて求められる。たとえば、対物レンズ40倍と接眼レンズ10倍を使用して観察した場合、顕微鏡の総合倍率は400倍となる。 | 図10 顕微鏡の結像のしくみ |
旧タイプや一部の実習用顕微鏡は、対物レンズ単体で中間像を結ぶ方式になっている。しかし、研究・検査用顕微鏡の多くは、対物レンズを通した光をいったん
平行光線にして、別に設けられた結像レンズによって中間像を結ぶ方式を取り入れている。前者を「有限補正光学系」、後者を「無限遠補正光学系」と呼ぶ。
無限遠補正光学系は、対物レンズと結像レンズの間が平行光線となっているため、次のような長所がある。
| 図11 有限補正光学系 図12 無限遠補正光学系 |
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