多光子顕微鏡法は、小さなマウスから霊長類などのより大きな哺乳類まで含む動物モデルにおける、脳構造および細胞レベルでの脳活動に関する生体内研究の主要ツールとなっています。同手法のアプリケーションの広がりに伴い、研究者は動的な脳の反応性研究のための、ますます高速な容積イメージング性能を求め続けています。従来の顕微鏡設計では困難な特定の脳領域観察への関心も高まっています。オリンパスのインナーフォーカス角度可変対物レンズ台は、これらの問題に対応しています。本装置はオリンパスのFVMPE-RS多光子顕微鏡に搭載でき、可動アームでより高い自由度を得ると同時に、機械的動作のない素早い軸方向の焦点合わせも容易に行えます。
角度可変対物レンズ台(図1)は、オリンパス正立多光子顕微鏡の標準的な対物レンズ台架台に取り付けます。図1に示すように、対物レンズの位置をフレームから遠くに広げ、2つの回転自由度(垂直軸を中心とした±90度の回転、および垂直軸を中心とした±180度の回転)が得られます。角度可変対物レンズ台により、トレッドミル上の覚醒しているマウスの頭部を固定した実験中[1]など、対象のサンプルが直立していなければならない場合でも脳の側方領域を柔軟に観察できます。さらに本装置は、通常の顕微鏡下で位置を正しく保つのが困難な大きなサンプルを用いた実験にも有用です。Iインナーフォーカス対物レンズ台のもう1つの主な特徴は、対物レンズを機械的に動作させることなく迅速に光学焦点を合わせられることです。これは、機械的振動によって実験結果が大きく変わる電気生理学実験では特に、圧電を用いた焦点合わせ装置に勝る利点です。さらに、全開で圧電装置より4倍以上速い焦点合わせ速度を実現します。オリンパスXLPLN25XWMP2対物レンズと併用すると、最大550 µmの範囲で焦点を合わせることができます。大きな移動範囲を高速焦点合わせと組み合わせることで、インナーフォーカス装置は、多量の生体内多光子イメージングのアプリケーションで増加するイメージングのスループット向上にたいへん有効な装置となります。 | 図1:インナーフォーカス角度可変対物レンズ台 |
神経回路レベルでの脳の高次認知機能をより深く理解するため、多くの研究者が、マカクなどのより高度な動物のモデルを多光子顕微鏡法に適用し始めています[2]。しかし、特定の脳内領域を観察するために、従来の顕微鏡下で大きな動物の適切な位置を保つことは困難な場合があります。オフ角イメージングを可能にするシステム変更により、対物レンズを斜めから標本に近づけることで、これらの機械的問題を解決できます。インナーフォーカス角度可変対物レンズ台により、多光子顕微鏡でのオフ角イメージングが容易になります。対物レンズの位置を顕微鏡のフレームから遠くに広げ、大きなサンプルを用いた実験の構築においてより大きな空間が利用できます。対物レンズの角度を調節し、様々な方向から関心領域に近づくことができます。大きなサンプルの生体内研究の最中に、試験台を動かして焦点を調節するのは実用的ではありません。それに代わり、遠隔光学焦点機構により、標本や対物レンズを機械的に動かすことなく、選択した対物レンズの角度に合わせた焦点合わせが可能です。インナーフォーカス装置は、焦点範囲全体で光学的な倍率および視野を維持するように設計されています。
インナーフォーカス角度可変対物レンズ台は、様々なフレームに取り付け、幅広い実験設定で使用可能です。図2aは、顕微鏡下に大きな体積を確保できるオリンパスFVMPE-RSのオプションの門型フレームに取り付けたインナーフォーカス装置を示しています(640 mm × 355 mm × 520 mm;幅 × 高さ × 深さ)。インナーフォーカス対物レンズ台に装着したXLPLN25XWMP2多光子対物レンズの垂直方向の最大空間は、ベースプレートから179 mmです。図2bは、同様の対物レンズでベースプレートから最大174 mmの空間が確保できるオプションの嵩上げフレームに取り付けた本装置を示しています。嵩上げフレームは、顕微鏡の下ではなく、前面により大きな空間を求める電気生理学者などの研究者向けに設計したもう1つのカスタムソリューションです。
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図2:門型フレームに取り付けたインナーフォーカス装置(a)と、嵩上げフレームと組み合わせたインナーフォーカス装置(b)。
インナーフォーカス対物レンズ台による高速焦点調節で、研究者は無損傷脳内における複数深度の平面での動的なニューロン活動を並行して記録することが可能です。この手法は、異なる深度でのニューロン間の相互作用の観察、あるいは個々のニューロンの同時抽出に使用できます。下の例では、異なる2平面でのニューロンの活性化が、インナーフォーカス対物レンズ台とFVMPE-RS多光子顕微鏡による共鳴走査を併用して同時に記録されています。図3には、あらかじめAAV-hsyn-flex-G6fウィルスを注入した、薄い頭蓋骨の、頭部を固定化した覚醒しているマウスの内嗅球上の僧帽細胞の活性化を示しています。インナーフォーカス対物レンズ台は、共鳴走査モードで画像を撮影しながら、45ミクロン離れた異なる2平面にある観察領域を素早く切り替えるために使用しました。2つの画像ストリームは、それぞれ9 FPS、合計画像取得スピード18 FPSで撮影しました。嗅覚刺激剤に対する反応におけるニューロンの活性化はいずれの平面でも観察可能であり、様々な軸平面におけるネットワークとしてのニューロン活動に関する、研究者のより深い理解に貢献します。
a) | b) |
図3:覚醒している、頭蓋骨の薄いマウスのMVE臭気に対する僧帽細胞のGcamp6反応。2平面は軸方向に45ミクロン離れています。インナーフォーカス対物レンズ台により、高速で多平面イメージングを行うために2つの平面を切り替えることができます。
インナーフォーカス装置は、観察が困難な関心領域に対物レンズを移動する能力、および標本や顕微鏡対物レンズを移動することなく焦点を合わせる能力を備え、研究者が直面している複数の重要な問題に対応しています。高速焦点合わせと組み合わせた軸方向の大きな焦点範囲は、高速容積および多平面イメージングを可能にする、インナーフォーカス角度可変対物レンズ台のもう1つの利点です。これらの特徴により、本装置は生体内イメージング研究に理想的な装置です。
[1] Dombeck, Daniel A; Khabbaz, Anton N; Collman, Forrest; Adelman, Thomas L; Tank, David W (2007) Imaging Large-Scale Neural Activity with Cellular Resolution in Awake, Mobile Mice.Neuron 56, 43–57.
[2] Ming, Li, Fang, Liu, Hongfei, Jiang, Tai Sing Lee, Shiming Tang (2017).Long-Term Two-Photon Imaging in Awake Macaque Monkey.Neuron 93, 1049–1057.
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