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Microscope optical principle - Objectives

顕微鏡の構成と仕様 ~対物レンズ~ 


2.対物レンズ(OB:Objective)
2-1.基本仕様

対物レンズは、観察物の像を最初につくり出す部分である。顕微鏡の光学性能を決めるもっとも重要な機器であり、設計・製造には最高の精度が要求される。
対物レンズの基本仕様を学習し、観察対象や目的によって最適な対物レンズとは何かを理解する。
図1 対物レンズ
図1 対物レンズ


開口数(NA:Numerical Aperture)

分解能、焦点深度、像の明るさを決める要素である。開口数が大きいほど分解能が高くなり、明るい像を観察することができる(顕微鏡の基礎知識_顕微鏡の光学原理 ~顕微鏡の能力~ 3-1.分解能と開口数 参照)。
対物レンズの倍率が高いほど開口数も大きくしてある。


倍率(M:Magnification)

標本に対する中間像(倒立の実像)の倍率である(顕微鏡の基礎知識_顕微鏡の光学原理 ~レンズによる結像~ 2-4.顕微鏡の結像原理 参照)。
低倍率(4×~10×)、中倍率(20×~50×)、高倍率(100×以上)のほか、極低倍率(2.5×以下)などがある。


作動距離(WD:Working Distance)

ピントを合わせたときの、対物レンズ先端から標本面までの距離をいう。開口数の大きい対物レンズほど作動距離は短くなる。


同焦点距離(PFD:Parfocalizing Distance of the Objective)

ピントを合わせたときの、対物レンズ胴付き面から標本面までの距離をいう。国際標準化機構(ISO:International Organization for Standardization)で定める規格があり、45mm、60mm、75mmなどがある。
同焦点距離は、対物レンズの倍率によらず一定なので、全長の短い(低倍系の)対物レンズは作動距離が長く、全長の長い(高倍系の)対物レンズは作動距離が短い。
図2 作動距離と同焦点距離
図2 作動距離と同焦点距離


カバーガラス厚

対物レンズには、カバーガラスの厚さが数値で記されている(ページ下 2-4.表示 参照)。
カバーガラス標本用、ノーカバー標本用、カバーガラス標本/ノーカバーガラス標本共用との3種類がある(顕微鏡の基礎知識_顕微鏡の種類と用途 2-1.プレパラート標本の種類 参照)。


液浸系と乾燥系

標本と対物レンズの間に液体を満たして観察する方法がある。この観察に使用する対物レンズを「液浸系対物レンズ」といい、液体には、イマージョンオイル、水、グリセリンなどが用いられる。対物レンズの鏡胴面には、「Oil」「W」「Gly」のように使用する浸液の種類が記されている(ページ下 2-4.表示 参照)。
浸液などを使用せずに観察するときは、「乾燥系対物レンズ」を使用する。


機械的鏡筒長(MTL:Mechanical Tube Length)

接眼レンズ取付け面から対物レンズ胴付け面までの距離をいう。対物レンズの鏡胴面には、有限補正光学系のものには、その有限値が、無限遠補正光学系のものは「∞」と記されている(顕微鏡の基礎知識_顕微鏡の光学原理 ~レンズによる結像~:顕微鏡の光学システム 参照)。有限補正方式が採用されていた時代には、生物用には160mm、金属用には210mmと表示された対物レンズがあった。


レベルアップ:対物レンズの開口数

高倍率の対物レンズの場合は、倍率にふさわしい十分な開口数にするために、標本と対物レンズの間を液体で満たし、開口数を向上させている。使用する液体によって屈折率は異なる。

図3 乾燥系対物レンズの開口数

図3 乾燥系対物レンズの開口数

図4 液浸系対物レンズの開口数

図4 液浸系対物レンズの開口数


取付けネジ

対物レンズの取り付けネジ径にはISOの規格寸法が採用されている(口径20.32mm、ネジピッチ36山/インチ)。そのほか、口径26mm、ネジピッチ36山/インチなどがある。
生物用対物レンズ:口径20.32mm、ネジピッチ36山/インチ
明暗視野対物レンズ(金属用):口径26mm、ネジピッチ36山/インチ
図5 対物レンズ取付けネジ部  (左:生物用 右:明暗視野用)
図5 対物レンズ取付けネジ部
(左:生物用 右:明暗視野用)


2-2.種類

対物レンズは、性能の異なるものが数多く用意されている。何を観察するか、どの観察方法か、観察の目的に合ったものを選択することが大切である。


収差補正による分類

対物レンズの光学性能に大きな影響を与えるのが色収差と像面湾曲収差(ページ下 2-3. レンズの収差 参照)である。対物レンズは、この2つの収差補正のレベルにより分類される。

種類 概要 主な用途
アクロマート対物レンズ
(Ach:Achromat)
2色(赤・青)の色収差を補正したもの。
もっとも一般的であるが、視野中心にピントを合わせると周辺がぼけてしまうため、撮影には適さない。
・一般観察
・実習
プラン・アクロマート対物レンズ
(Plan:Plan-Achromat)
2色(赤・青)の色収差と像面湾曲収差を補正したもの。
視野中心だけでなく周辺までピントが合い、平坦な像が得られるので撮影に適している。
・一般観察
・検査
・撮影
プラン・セミアポクロマート対物レンズ
(PlanFl:Plansemiapochromat)
紫にわずかに色収差の残った3色(赤・青・紫)の色収差と、像面湾曲収差を補正したもの。フルオリート(Fluorite)とも呼ばれる。
性能は、プランアクロマート対物レンズとプランアポクロマート対物レンズの中間的な位置付けとなる。高級タイプ。
・検査
・研究
プラン・アポクロマート対物レンズ
(PlanApo:Plan-Apochromat)
3色(赤・青・紫)の色収差と像面湾曲収差を補正したもの。
開口数が大きく、分解能に優れ、理想的な像を得ることができる。最高級タイプ。
・検査
・研究

※像面湾曲収差を補正したものは「プラン(Plan:ドイツ語で「平面」の意味が語源)」と呼ばれている。

図6 プラン・セミアポクロマート対物レンズ (偏光用)

図6 プラン・セミアポクロマート対物レンズ
(偏光用)

図7 プラン・アクロマート対物レンズ(位相差用
図7 プラン・アクロマート対物レンズ(位相差用)
図8 プラン・セミアポクロマート対物レンズ (ユニバーサル)

図8 プラン・セミアポクロマート対物レンズ
(ユニバーサル)

図9 プラン・アポクロマート対物レンズ (ユニバーサル)

図9 プラン・アポクロマート対物レンズ
(ユニバーサル)


観察方法による分類

光学顕微鏡では、目的に応じたさまざまな観察方法があり(顕微鏡の基礎知識_顕微鏡の種類と用途 1-3.観察方法による分類 参照)、これら専用の対物レンズ、あるいは2つ以上の観察方法に共用できる対物レンズがある。

種類 特徴
明視野観察用対物レンズ 明視野観察用で、色のにじみが少なくコントラストが高い。
位相差観察用対物レンズ レンズ内部に位相板が内蔵され、専用のコンデンサ(顕微鏡の基礎知識_顕微鏡の構成と仕様 ~照明系~ 5-2.コンデンサ 参照)と組合わせて使用する。
偏光観察用対物レンズ レンズ面の偏光の乱れが少なく、レンズのひずみを小さくなるよう設計されている。
蛍光観察用対物レンズ 開口数が大きく、透過率が高い。レンズ自体の蛍光が抑えられている。
レリーフコントラスト観察用対物レンズ プラスチックシャーレなど、複屈折のある容器で立体的な観察ができる。
レンズ内部にモジュレーターが内蔵されている。専用のコンデンサと組合わせて使用する。
明暗視野観察用対物レンズ
(金属顕微鏡用)
レンズ周辺部にリング状の照明光路が付いている。
微分干渉観察用対物レンズ 蛍光観察用と共用できるものが多く、微分干渉のプリズムが使用できるよう設計されている。


特殊な機構

種類 特徴
スプリング付き 標本と対物レンズの先端が衝突したときの緩衝機構。標本の破損を防ぐことができる。
補正環付き カバーガラスの厚さのばらつきによって生じる球面収差を補正する。補正環をまわすと内部のレンズ群が移動する構造になっている。
絞り付き 開口数を可変できる絞りが内蔵されている。蛍光観察や暗視野観察でコントラストを調整できる。

図10 左:プラン・セミアポクロマート対物レンズ(生物用) 右:明暗視野用プラン・セミアポクロマート対物レンズ(金属用)

図10 左:プラン・セミアポクロマート対物レンズ(生物用) 右:明暗視野用プラン・セミアポクロマート対物レンズ(金属用)


2-3.レンズの収差

1点から出た光がレンズを通り、1点で焦点を結ぶのが理想的なレンズである。しかし、現実には、光の屈折やレンズの形状によって像が広がったり歪んだりする。この理想像と実際の像とのずれを収差という。
収差は、単色光によって生じる5種類と、光の波長によって生じる2種類の色収差に分類される。

球面収差(Spherical Aberration)

レンズに光軸上の1点から光を入射すると、レンズの光軸に近いところを通る光と、光軸から離れたところを通る光は1点に集まらず広がってしまう。これを球面収差といい、シャープな像が得られない。
凸レンズと凹レンズでは球面収差が逆に出るため、これらを組合わせて球面収差を補正する。
図11 球面収差
図11 球面収差

図12 球面収差の例
図12 球面収差の例


コマ収差(Comatic Aberration)

レンズに光軸外から斜めに光を入射すると、像面上で1点に集まらず、彗星(Comatic)のように尾を引いたボケが生じる。これをコマ収差という。コマ収差は軸外の球面収差である。
図13 コマ収差
 


非点収差(Astigmatism)

レンズの縦断面を通る光(M:Marginal光線)と、横断面を通る光(S:Sagital光線)が、像面上で1点に集まらず、同心円方向の像と放射線 状方向の像が分離してしまう。これを非点収差といい、ピント合わせの位置の前後で、点像が縦長や横長に見える。人の眼による乱視は、眼の非点収差による現 象である。
図14 非点収差
図14 非点収差


像面湾曲収差(Curvature)図13 コマ収差

光軸上の光と光軸外の光の結像する位置が異なるとき、像が平面にならず湾曲する。これを像面湾曲収差という。視野の周辺にいくほど結像する位置がずれていくため、視野の中心にピントを合わせると周辺の像がぼけてしまう。

図15 像面湾曲収差の例
図15 像面湾曲収差の例
図16 像面湾曲収差


像面歪曲収差(Distortion)

レンズに入射する光の角度によって像の倍率が変わるため、物体と像の形状が相似形にならず、歪んでしまう。これを像面歪曲収差という。正方形の物体の像が糸巻き型(正の歪曲収差)や樽型(負の歪曲収差)に変形する。
図17 像面歪曲収差
図17 像面歪曲収差


色収差(Chromatic Aberration)

レンズの材質であるガラスは、光の波長によって屈折率が異なる性質を持っている。このため、レンズを通った光は波長ごとに分散され、像に色ずれや色のにじみが生じる。これを色収差といい、軸上色収差と倍率色収差がある。

  • 軸上色収差(Axial Chromatic Aberration)
    波長ごとに焦点距離が異なるため、光軸上の結像位置にずれが生じる現象である。対物レンズでは必ず補正しなければならない収差である(ページ上 2-2.種類 参照)。
  • 倍率色収差(Lateral Chromatic Aberration)
    波長によって結像倍率が異なるため、像に色のにじみが生じる現象である。
    倍率色収差の補正には、コンペンゼーション方式(対物レンズで補正できない収差を、接眼レンズで逆の収差を発生させて打ち消す方法)や対物レンズと接眼レンズで個々に補正する方式がある。

図18 色収差の例(像の境界部分に色のにじみが出る)
図18 色収差の例(像の境界部分に色のにじみが出る)


コラム:色収差補正の原理

凸レンズでは、赤の屈折が小さく青の屈折は大きくなり、逆に凹レンズでは、赤の屈折が大きく青の屈折は小さくなる。この特徴を組合わせれば、赤も青も同じ位置に焦点を結ぶことが可能になる。
色ごとに屈折率が異なっても、凸レンズと凹レンズを組合わせることで焦点が同じ位置になり、収差の少ないレンズとなる。

図19 色収差
図19 色収差
図20 アクロマートレンズの原理
図20 アクロマートレンズの原理

2-4.表示

対物レンズの鏡胴面には、種類、倍率、開口数など、レンズ性能を表す記号が記されている。また、レンズ先端部分には、カラーリング(色帯)が付いており、カラーリングの色から倍率や浸液がわかるようになっている。

図21 対物レンズの表示
図21 対物レンズの表示

図21 対物レンズの表示

浸液   機械的鏡筒長

カバーガラス厚

カラーリングコード(倍率)  カラーリングコード(浸液)

チェックポイント

  • 対物レンズは、開口数が大きいほど分解能が高く、明るい像を観察することができる
  • 収差とは、理想像と実際の像とのずれである。特に色収差と像面湾曲収差のレベルで対物レンズの種類が分かれている
  • 対物レンズの鏡胴面に記された記号によって、レンズ性能を知ることができる

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