近年、ライフサイエンスや産業の発展は目覚ましいものがあり、顕微鏡は必要不可欠なものとして多大に貢献しています。その構成要素の中でも高画質な画像を生み出すための光学性能を決めるいわば心臓部と言える最も重要な要素の一つが対物レンズです。高精度な対物レンズは、信頼できる安定した高品質画像の取得に貢献します。
これらの高精度な対物レンズがどのようにして作られているかご存じですか?対物レンズの製品化においては机上での光学設計のみではなく、実際に製造ができなくてはなりません。そしてその製造においては、設計された光学性能を実現するために高度かつ高精度な製造技術が必要となります。
エビデントの顕微鏡対物レンズはすべて日本の長野県にある工場で製造しています。もちろん機械で行う工程もありますが、組み立てや細かい調整などは人の手によって行われています。高性能な対物レンズの製造技術を継承し、より高度なものにするために、エビデントでは技術者の間でその技術が長い間引き継がれてきました。 このブログでは対物レンズの製造現場の裏側をご紹介します。。顕微鏡製造の技術が評価され、2015年に「現代の名工」、2020年に黄綬褒章を受章した今井豊さんへインタビューをしました。 |
Q:非常に高度な製造技術ですが、安定して高い製造品質を確保するために、どのような工夫をされていますか?
今井:このように高度な製造技術は従来、「匠」と呼ばれる高度技能者の感覚による判断に依存する面が多く、その技術を製造工程にいかに反映させるかが課題でした。
XLineシリーズの製造においては、波面収差コントロールという品質規格を設けることで、「匠」の感覚に頼っていた収差の測定を、一部自動化することで匠の持つ技術の製造工程への落とし込みに成功しました。これにより、「匠」の持つ技術を反映した、高い製造品質を安定して確保できるようになりました。
Q:匠や、技能者の技術継承についてお聞かせください。
今井:対物レンズは、レンズを何層も積み重ねて製作され、その1枚が僅かにずれているだけで見え方が変わるので、専用の治具を使い、手作業で微調整をします。高度なレンズ調整ができる一人前の技能者となるには、最低でも10年の経験が必要になります。私たちの工場では、今までに何人もの「現代の名工」を輩出しています。
Q:これまで培った技術の継承に力をいれているとのことですが、どのように取り組まれているのでしょうか?
今井:入社した当時は今より部品の精度が低く、技能の習得が困難でした。技能習熟にかかる期間が長く、ノウハウの継承が難しい環境に危機感を抱いていました。この現状を変えるべく、社内で今井塾を新たに立ち上げ、若手メンバー向けにこれまで培った技能や知識を継承する試みを始めました。
今井塾ではマンツーマン指導のほか、今までの経験・知識を作業要領書に編纂、文書として記録しています。具体的には色々な収差を分かり易くするために写真を撮って一括したテキストを作成し、そのトレーニングキットの画像をモニターに映して指導する方法を導入しています。実技指導ではレンズ調整における力の入れ方、指の使い方など、細かな動作にまで踏み込んだ指導を実施しています。
Q:最後に、対物レンズ作りに対する想いをお聞かせください。
今井:常に最高品質のチャンピオンレベルを目指してモノづくりに取り組んでいます。安易な妥協はせず、1本1本の対物レンズに心を込めています。その想いが出来栄えとしてお客様にも伝わり、満足や信頼にも繋がると信じています。また、ただモノを作るだけではなく、同じ想いを持った高度技能者を育成することも重要な使命です。モノづくりをしていると日々問題が発生しますが、知識や経験を活かし、要因解析を共に行うことで、対物レンズの技能を継承しています。
卓越した技術力に支えられた対物レンズの世界
「現代の名工」今井豊さんへのインタビューを通じて、エビデントの対物レンズ製造における優れた専門知識と技術者の深い情熱についてご紹介しました。このような技術者たちの努力と技能の継承は、複雑な光学技術を追求するうえで不可欠なものです。
この情熱と高度な技術力が活かされた対物レンズの詳細は、X Lineシリーズを含む顕微鏡対物レンズの豊富なラインアップをご覧ください。また以下のビデオでは、エビデントの高精度対物レンズを支える極薄レンズ技術をご覧いただけます。お客様の用途に合う最適な対物レンズを見つける には、お気軽に個別サポートについてお問い合わせください。