多くの研究者や検査技術者は、接眼レンズを通して見える色と全く同じ色を顕微鏡画像に求めます。例えば、病理学者は組織の識別に色を利用し、細胞学者はパパニコロウ染色との色の違いをもとに細胞型を識別します。
では、人眼の色覚をどうやって顕微鏡画像で模倣するのでしょうか。それにはまず、自分の眼が認識する色が、顕微鏡カメラおよびモニターで見る色とどう異なるかを考えます。
本日の投稿では、ヒトの色覚の仕組みを探り、オリンパスのカメラ技術がそれをどのようにして顕微鏡に再現するのかをご説明します。
人眼の歴史—なぜ、夜は色が見えないのでしょうか。
人眼には、2種類の異なる細胞が存在します。桿体細胞と錐体細胞です。 桿体細胞は錐体細胞よりも敏感で、薄暗い光を検出したり、夜にものを見たりすることができます。ヒトには、錐体細胞のおよそ20倍の桿体細胞があります。これはおそらく、私たちの祖先が暗い中で眼を覚ましている時間が長かったからでしょう。しかし、桿体細胞は色を区別することができないため、私たちの眼は夜に色を検出しにくいのです。 |
逆に錐体細胞は、薄暗い光を検出できませんが、色を特定することができます。そのため、錐体細胞は3種類の細胞を使います。
- 長波長の光を感知するL錐体
- 中波長の光を感知するM錐体
- 短波長の光を感知するS錐体
視界の進化
私たちの祖先には元々、4種類の錐体があり、紫外(UV)、青、緑、赤の光を感知していました。魚と鳥は現在でも、この幅広い波長域で見ることができます。しかし、祖先がUVと緑の錐体を失った後、緑の光を検出するため、私たちはL錐体の突然変異としてM錐体を得ました。
このより高い色解像度は、祖先たちが昼間に食べ物を集めるのに役立ったかもしれません。私たちの進化の歴史によって、下図の現在の応答スペクトルが生じたのです。ご覧のように、M錐体とL錐体は接近しています。これは、M錐体がL錐体から進化したためです。
図1 人眼のスペクトル感度(感度がそれぞれのピークで正常化されています。)
顕微鏡カメラでヒトの視界を模倣
一方で、電荷結合素子(CCD)やべイヤーフィルター付き相補型金属酸化膜半導体(CMOS)センサーのようなカメラセンサーは、下図のように、異なるスペクトル感度を特徴とします。さらに、PCモニターの光スペクトルはRGB信号によるものなので、物理的なサンプルと同じスペクトルを作成できません。オリンパスのカメラは、ヒトの眼で見る色をコンピューターモニターに再現する特殊な処理を利用しています。
図2 カメラセンサーのスペクトル感度
顕微鏡カメラの正確な色の再現方法
ほとんどのカメラセンサーには、700nm超の感度があります。そのため、赤外線により画像は赤みがかって見えます。人眼は近赤外線または赤外線が見えないので、オリンパスのカラーカメラは赤外線(IR)除去フィルターを使用しています。その後、顕微鏡法専用の画像加工技術を施してセンサーからの信号を画像データに変換します。それをモニターに表示して、錐体細胞からの応答を模倣できるのです(図3)。
これは、顕微鏡の照明スペクトルのみならず、標本、色素、色、カメラおよびPCモニターのスペクトルの特性を理解しなければならないため、そう簡単では有りません。しかし、オリンパスの顕微鏡データおよび生物学で一般的に使用されるサンプルの知識を使用し、オリンパスの顕微鏡カメラで使用する顕微鏡色再現技術を開発しました。
この技術により、色を見事に再現できる幅広い種類の顕微鏡カメラを提供することが可能となりました。カメラセレクターを使って、あなたのアプリケーションに最適なカメラを見つけてください。
図3 人眼応答を模倣するためのオリンパスの色再現技術