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業界最薄のコンパクトデザインを実現した新しい細胞観察技術

はじめに

オリンパスCM20は、インキュベーター内で細胞培養の状況を無染色で観察可能にするスキャナーのようなモニタリング装置です(図1)。小型で薄型の形状を実現することで、普段お使いのインキュベーターに設置してご利用いただけます。特殊なインキュベーターは必要ありません。また、装置上面を平面にしたことで、多層フラスコのような高さのある大型容器を置いて観察することができます。この形状を実現するため、新たに落射偏射照明を開発しました。

図1 インキュベーションモニタリングシステムCM20

図1 インキュベーションモニタリングシステムCM20
 

開発の背景

インキュベーター内で観察可能な装置は存在しますが、培養容器の全面を観察できるものは、インキュベーター内のスペースを大きく損失する、あるいは特別な環境や新たなインキュベーターが必要でした。オリンパスは、この課題を解決するには装置の小型薄型化が必要であると考え、従来の観察方法では達成できない新たな観察技術を開発しました。
 

従来の細胞観察装置が大きくなる要因

細胞培養において無色透明な試料である細胞を無染色で観察する装置として、位相差観察法や微分干渉観察法を用いた倒立型の培養顕微鏡が知られています(位相差観察法や微分干渉観察法についてはこちらをご参照ください)。

これらの観察方法を用いた顕微鏡は、サンプルを挟んで観察光学系と照明光学系を配置する必要があり、また容器全面を観察するには可動ステージも必要になり、装置が大型化、複雑化することが課題でした(図2)。

このように大きくて複雑な形状の装置は、インキュベーター内の限られたスペースを損失したり、設置する際の装置の清掃を煩雑にしたりします。

図2 培養顕微鏡

図2 培養顕微鏡

落射偏射照明技術の仕組みとその利点

新たに開発した落射偏射照明を使用することで、従来の培養顕微鏡と比べて装置が大幅に小型化しました(図3)。この技術のユニークな点は、培養容器の天板(フラスコ容器の上面、ウェルやペトリディッシュ容器の蓋)からの反射光を利用した偏射照明を行っていることです(偏射照明についてはこちらをご参照ください)。これにより、観察光学系と光源部を含んだ照明光学系を共に装置内部に配置することができ、従来の透過照明装置(支柱)が不要になり、装置の上面を平面にするフラットトップな形状が実現できました(図3)。本装置では、業界最薄となる厚さ55㎜の設計を実現し(容器ホルダー未設置時)、普段お使いのインキュベーター内のスペースをできるだけ損なうことなく設置することが可能となります(図4)。

*2020年4月 オリンパス調べ

図3 従来の顕微鏡とCM20の側面図

図3 従来の顕微鏡とCM20の側面図
 

図4 インキュベーターにCM20を設置した様子

図4 インキュベーターにCM20を設置した様子
 

装置の構成と撮像画像の見え方

偏射照明には透過の照明光を用いるのが一般的ですが、新たに開発した落射偏射照明技術では、インキュベーター内のスペースをできるだけ損なわないように対物レンズ側からの照明を用います。対物レンズの外周方向に配置された光源から照射された照明光は、試料の上方の容器天板で反射されます。反射された照明光は、対物レンズの光軸に対して斜め上方から試料に入射し、試料を透過した透過光が対物レンズで撮像されます(図5)。試料への入射角度が対物レンズの開口数(NA)と同等となる照明光を取り込むような設計にすることで偏射照明の条件になり、細胞などの透明な試料に対しても明暗のコントラストのついた見やすい画像を取得することができます(図6)。

図5 落射偏射照明の構成

図5 落射偏射照明の構成

図5 落射偏射照明の構成
 

フィーダフリーiPS細胞

フィーダフリーiPS細胞

間葉系幹細胞(MSC)

間葉系幹細胞(MSC)

マウス胚性線維芽細胞(MEF)

マウス胚性線維芽細胞(MEF)

図6 落射偏射照明で撮像した画像
 

多種多様な容器への対応が可能

CM20はさまざまな培養容器への対応が可能です。天板位置が高い容器の場合は、外側付近の照明光が偏射照明条件となり、低い容器の場合は、内側付近の照明光が偏射条件となります(図7)。また、容器の壁面による照明条件への影響を防ぐために、上下の2方向に光源を配置しています。容器の上半分の位置の撮像時は下側の光源からの照明、容器の下半分位置の撮像時は上側の光源からの照明で照射することにより、容器の壁面による影響を受けない安定した照明条件を実現しています(図8)。

さらに、容器天板の反射光を利用するため容器を複数個重ねた状態でも観察でき、従来の観察方法では観察が困難であった多層フラスコのような大型容器での観察も可能です(図9)。

図7 さまざまな容器の天板の高さに対応した照明光学系 側面図

図7 さまざまな容器の天板の高さに対応した照明光学系 側面図
 

図8 容器の下半分の撮像時の照明

図8 容器の下半分の撮像時の照明
 

図9 多層フラスコ設置時

図9 多層フラスコ設置時
 

まとめ

落射偏射照明技術の開発により、フラットトップで小型の容器全面を観察できる全く新しい形状のモニタリング装置の開発に成功しました。これにより、普段お使いのインキュベーターのスペースを大きく損なうことなく細胞培養の効率化に寄与します。
 

著者

オリンパス株式会社
基盤機能 光学システム開発 科学光学開発 開発2
水中賢
 

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