エビデントは、自社独自で開発した次世代検出器「SilVIR」を、共焦点レーザー走査型顕微鏡FLUOVIEW FV4000に搭載しました。この検出器は、可視から近赤外までの広い波長範囲において、極めて低ノイズかつ高感度であり、高いS/N比を実現しました。高速かつ高ダイナミックレンジのフォトンカウンティングによる正確なフォトン検出能力を持ち、さらに、感度劣化が無いことから、SilVIRディテクターは画像輝度値の定量化に基づく高い実験再現性を実現しました。さらに、従来の光電子増倍管(Photomultiplier tube、PMT)による検出器において一般的に必要とされるゲイン調整を不要にすることで、簡単な操作性を実現しました。これらの優れた性能により、SilVIRディテクターはレーザー走査型顕微鏡の新機軸になるでしょう。
非常に微弱な蛍光を検出する必要があるレーザー走査型顕微鏡においては、従来、数フォトンレベルの微弱光量を高感度、高ゲインで検出できるPMTが標準的な検出器として用いられてきました。しかし、PMTを用いたレーザー走査型顕微鏡にはこれまで明らかにされていなかった、いくつかの潜在的課題がありました。
エビデントは共焦点レーザー走査型顕微鏡FLUOVIEW FV4000の蛍光検出ユニットの光検出センサーに、半導体タイプの新型センサーSiPM(Silicon Photomultiplier)を採用しました(図.1 a、b)。また、その信号処理回路にもこのセンサーの特長を最大限に引き出し、高画素数・高速イメージングへの適用性を広げる新技術を搭載しました(図.1 c)。この新技術に基づく蛍光検出器をSilVIR(Silicon detector Visible to IR)と名付け、これにより従来型のPMTを搭載したレーザー走査型顕微鏡の数々の課題を解消し、新次元の性能と、より高い操作性を両立して実現しました。
本稿では、従来のPMTによるレーザー走査型顕微鏡撮像の課題を明らかにしたうえで、SilVIRディテクターがそれをどのように解決したかについて説明します。
図1. SilVIRディテクターの構成とその特徴
(a)FV4000蛍光検出ユニット
(b)SilVIRディテクターの分光感度特性。広波長対応型と近赤外波長対応型の検出器を組み合わせることにより、可視域400nmから近赤外域900nmまで従来の高感度GaAsP-PMTよりも高感度を実現。
(c)SilVIRディテクターは、SiPMセンサーと1GHz高速ADサンプリングおよび、デジタル信号処理で構成されている。
これまで、多くのレーザー走査型顕微鏡ユーザーから、次のような疑問、不安、不満の声を聞いてきました。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか?それは、PMTを使った蛍光検出が、レーザー走査型顕微鏡にとって決して理想的では無かったためです。では、レーザー走査型顕微鏡にとって理想的な検出器とはどのようなものでしょうか?それは下記4項目で表現できると考えられます。
微弱な蛍光シグナルをイメージングするには、わずかな入射フォトン数であっても効率良く検出する必要があり、センサーの量子効率(Quantum Efficiency、QE)やフォトン検出効率(Photon Detection Efficiency、PDE)が高い事に加え、センサーや検出回路の内在ノイズが無視できるくらいに低レベルであることが重要です。
測量対象である光量の物理的尺度には様々な定義があるものの、蛍光という微弱光量を扱う範囲において最も確度が高いのは量子的な「フォトン数」です。理想的かつ最も単純な検出は、図2の様に、フォトンカウンティング検出などにより検出されたフォトン数がそのまま画像輝度値に置き換わる事です。
画像輝度値を定量的な物理量に置き換えることは非常に重要です。それは、装置固有の値ではないため、異なった装置間で、同じイメージング結果を再現させる際に非常に有用な情報になります。また、フォトン数は公共的な値であるため、他の研究者との情報共有がスムーズになります。更に、解析時に画像を前処理する際の指標としても大いに役立つでしょう。
図2. レーザー走査型顕微鏡の蛍光検出プロセス
蛍光検出はセンサーにフォトンが入射することから始まる。センサーの受光面で入射したフォトンを光電子変換した後、その光電子数を増幅して電流として出力するのが一般的である。センサーからの電流出力は増幅回路を経てアナログ-デジタル(AD)変換され、デジタル化された信号を画像の1画素毎の輝度値とする演算プロセスを経て、PCソフト上で画像の各画素の輝度値として表示される。
仮に上記の項目が実現できても、ダイナミックレンジといわれる一度に検出できる光量のレンジ(フォトン数上限)が低いと、光量が高い部分で輝度飽和を起こしてしまい、その部分の定量性が失われます。また、フォトンノイズ(センサー受光面でのフォトン検出における確率的ノイズ、別名ショットノイズ)を抑制するため、比較的強い励起光により多量のフォトンが放出された条件で画像取得する事で、画質を向上できますが、この点でもダイナミックレンジが高いほど高画質で撮像することが可能です。例えば図3の通り、検出される蛍光光量の多い右側ほど、励起強度は強いものの、画質が改善していることが分かります。
さらに、検出器や回路の設定条件を変えることなく固定の条件で高いダイナミックレンジを有していることが理想です。例えば上限レンジを拡張させるために検出器ゲインを変化させてしまうと、ゲイン変更前後で検出光量と輝度の対応関係の定量性が失われ、得られた画像のみでは検出光量を逆推定することは困難です。別途、検量線を描き、補正を掛ける必要があります。一方で、図3のグラフは、画像内のラインAで取得した輝度プロファイルをプロットしたものですが、これらが単一の検出側設定で取得したものであれば、いずれの画像においても得られた輝度からその画素での検出光量(フォトン数)を定量的に推定することが可能となります。
図3. 検出された蛍光光量と画質との関係
S/N比は、蛍光光量/√蛍光光量で表現している。
次に、理想的な検出器に対して、レーザー走査型顕微鏡に従来型検出器であるPMTを使用する場合の問題点について説明します。
近年、可視域でのQEが40%以上に向上されたGaAsP光電面タイプのPMT[1]が、高感度検出器として使用されることが一般化しています。センサーや回路のノイズが存在するため、高めのゲインで用いて信号を増幅し、相対的にノイズが画像に影響させないような使い方が一般的です。また、受光面でフォトンが光電子に変換された後、その光電子が確率的な多段増幅過程を経て電流信号になります(図4)。そのため検出フォトン数が一定でも出力は確率変動してしまいます。これは特に検出フォトン数が少ない高画素数・高速イメージングにおいて画像S/N比を低下させる原因になります。
図4. PMTの構造とその入出力特性
光電面にフォトンが入射すると、光電面から放出された電子が真空管内で増倍され、信号が出力される。複数の増倍段(ダイノード)により2次電子放出が繰り返されるため、1フォトン入射時の応答出力が不均一で不安定になる。
前述のようにPMTでは光電子増幅時の確率的変動があるため、特にフォトン検出レートが低い場合の入出力の定量性は低いといえます。また、電極間に印加する電圧でゲインが調整できる一方で、ゲインを調整する事により入出力の対応比も変化します。さらに、同じ印加電圧でもPMTの個体差によりゲインの値は大きく異なり、加えて、一定以上の光量を増幅させようとして印加電圧を低めに設定した場合、リアリティが悪化するという問題もあります[1]。
また、PMTの場合、以下の避け難い現象から、積算強度に応じて少なからず感度劣化が進行します。
このような点からPMTを用いたレーザー走査型顕微鏡では検出光量と輝度の間に定量性を持たせることが困難です。
センサーを高い増幅ゲインにすれば数フォトン程度の微弱シグナルもノイズに埋もれず高S/N比が実現します。しかしPMTの出力電流の上限は数μA程度と低く、高いゲイン設定だと少ない検出フォトン数ですぐに出力が飽和してしまい、ダイナミックレンジが狭くなります。(図5a)一方で低ゲインにすれば強いシグナル(多量のフォトン検出)でも出力が飽和しなくなり、検出レンジは広がりますが、数フォトン程度の微弱シグナルでは増幅度が低いためノイズに埋もれてしまいS/N比が悪化します。(図5b)このように、ユーザーは観察対象の明暗分布や要求する画質レベルに応じて、検出器のゲインを手探りで調整する必要があります。その際にダイナミックレンジとS/N比も意図せず連動して変化してしまう不都合も生じているのです。
図5. PMTのゲインは、S/N比とダイナミックレンジのバランスを取りながら調整する必要がある
(a)高ゲイン時は、1フォトン検出シグナルがノイズ以上に増幅されるためS/N比が向上する一方で、ダイナミックレンジが低く、すぐに飽和する。
(b)低ゲイン時は、少数のフォトン検出シグナルはノイズに埋もれてしまうが、一方でダイナミックレンジが高く、多量の蛍光シグナルでも飽和しない。
このように輝度飽和を回避しつつ、満足のいく画質が得られる撮像設定を探索することは非常に煩雑で、レーザー走査型顕微鏡に慣れていないユーザーにとっては難しい作業となります。蛍光強度の強弱が異なる蛍光ビーズを、検出器ゲインを高ゲインと低ゲインに設定して撮像した事例で説明します。
図6aは検出器ゲインを高く設定した場合で、弱い励起光(図の一番左側)では暗いビーズがかろうじてノイズと分離して画像化できていますが、励起光を強くしていくと明るいビーズ部分はすぐに輝度飽和してしまいます(図の右側2枚の白飛び部分)。
一方で図6bは検出器ゲインを低く設定した場合で、弱い励起光(図の左側2枚)では暗いビーズのシグナルがノイズに埋もれてしまっています。励起光を最大(図の一番右側)にしても明るいビーズが輝度飽和せず良画質で撮像できる点で高ゲインの場合より優れていますが、暗いビーズの部分のS/N比に着目すると高ゲインの場合(図6bの一番右側)に比べると、あまり良いS/N比を得られません。
細胞標本の蛍光画像は一般的に輝度明暗の差が大きい画像であることが多く、さらにタイムラプスやZスタック撮影では撮影中に大きな明暗の変化が起こる場合があります。その際、例で示したように検出器のゲインの高低や、励起光強度、画素滞留時間などを試行錯誤して、明るい部分は飽和させず暗い部分も満足いくS/N比の設定を見つけ出すのはレーザー走査型顕微鏡に熟練しているユーザーにとっても難しく、レーザー走査型顕微鏡に不慣れなユーザーは失敗画像を大量に撮像してしまうことがあります。
なお、輝度が飽和していない撮像設定でS/N比が不足している場合は、複数フレームを撮像してそのフレーム間の平均や積算を行うことで、ランダムノイズのみを抑止してS/N比を向上させることが可能です。しかしこの場合も多数のフレーム枚数を撮像する必要があるため実質的な撮像フレームレートは大きく低下してしまいます。
このように、PMTを用いたレーザー走査型顕微鏡は、検出器ゲイン、励起光強度と画素滞留時間、さらにはフレーム間平均回数などの設定を駆使した非常に煩雑な撮像条件の探索が求められるのが現状です。
図6. PMTゲインの設定による蛍光強度の異なる蛍光ビーズ画像の違い
4枚の画像は右側ほど励起光強度を強くして蛍光強度を大きくした状態で撮影した。各画像の下には画像内の暗いビーズと明るいビーズを横断するラインAでの輝度プロファイルを模式的に図示したもの。輝度プロファイルのS(シグナルの高さ)とNs(フォトンノイズ)、Nd(回路ノイズ)との比がS/N比に相当する。
(a)ゲインを高めに設定した場合。暗いビーズのS/N比は高いが、明るいビーズでは飽和している。
(b)ゲインを低めに設定した場合。明るいビーズは飽和しないが、暗いビーズのS/N比が低い。
また、センサーだけでなく検出回路方式にも課題はあります。センサー信号やその増幅回路にはノイズが混入しているため、この信号をADコンバーターでサンプリングした強度をそのまま画素輝度値として画像化するとS/N比が非常に悪くなります(図7aの左側)。このノイズは一般的にはアナログ検出回路内の低域フィルター(ローパスフィルター)や積分回路で平滑化した後でサンプリングすることで、蛍光光量の真値に近いS/N比のよい画像が得られます(図7aの右側)。
しかし、レゾナントスキャナーの様に走査速度が高速になると、標本の構造を横断するのに要する時間が短くなります。図7bは図7aと同じ蛍光構造を図7aに比べて2倍の速度で走査した場合の様子を表しています。ノイズ除去のための低域フィルターを同様に適用すると、空間周波数が高い微細な部分を分離するための時間分解能が不足し、得られる画像の空間分解能が低下してしまいます(図7bの右側)。
低域フィルターの遮断周波数を上げれば時間分解能は復元しますが、一方でノイズ抑制効果は劣化してしまい今度はS/N比が悪化します。S/N比の低下を避けるには、ADコンバーターのサンプリング速度を画素周期の数倍から数十倍に高速化して1画素内で多数のサンプリングを行うことが求められます(オーバーサンプリングと言います)。
また、この問題に限らず、スキャナーの走査が高速になりかつ高画素数化すると、画素周期も短縮されるので、この点でもADコンバーターのサンプリングの高速化がより一層要求されてきます。
ノイズの平滑化についても、アナログ回路では低域フィルターのような時間分解能を犠牲にする単純なものしか採用できない問題があります。高速でサンプリングしたデータを用いて高度なデジタル信号処理フィルターを応用することで、時間分解能を犠牲にせずノイズだけを分離するフィルター方式が望ましいのです。
図7. ノイズ平滑化が画質と画素分解能に与える影響
(a)通常スキャン速度の場合。ノイズの平滑化により画質は改善する。
(b)スキャン速度が(a)に対して2倍速い場合。ノイズ平滑化による信号の帯域低下により画素分解能が低下する。
以上の、PMTによるレーザー走査型顕微鏡撮像の問題点は、新しい半導体タイプのSiPMと、高速デジタルサンプリング・プロセッシングとの組み合わせによるSilVIRディテクターにより、飛躍的に改善する事が出来ました。次章からそれぞれの先進的技術が、どのようにこれらの問題を解決したのかを詳しく説明します。
SilVIRディテクターの根幹であるSiPMとは、数千個のガイガーモード駆動のAPD(Single photon counting Avalanche Photo-Diode、SPAD)が2次元配列配置された検出素子の事で、検出信号は各APDの総和として出力されます[2]。(図8)
SiPMはガイガーモード駆動により、高ゲインにもかかわらず安定性の高い増倍過程で、1フォトン入射を高い信号レベルで検出できます。また、半導体の大量生産プロセスにより、その個体差は非常に小さくコントロールされるため、PDEやゲインの個体バラつきが小さく抑えられています。さらに、多数のフォトンが同時に入射しても、SiPMからはそれぞれのAPD電流の総和が出力されるため、出力電流の上限が高く、結果、多数のフォトン入射に対して高いダイナミックレンジを有しています。すなわち、1フォトン信号を高ゲインで増倍でき、なおかつ高いダイナミックレンジがあります。よって高S/N比と高ダイナミックレンジが両立しているため、ゲインを調節してS/N比とダイナミックレンジをトレードオフさせる調整が不要です。
さらに、SiPMは、フォトダイオードと同様に、光電変換の原理が価電子帯から伝導体へ電子を励起する内部光電効果であることから、電子が励起されても補充が迅速に行われます。従って、強い入射光量を受光しても感度とゲインは劣化しません。
図8. SiPMの構造と入出力特性
(a)SiPMを構成する各APDにフォトンが入射すると、受光面での内部光電変換、アバランシェ層での雪崩的な電子増倍を経て、電流信号が出力される。
(b)複数のフォトンが同時入射すると、その出力は各APDの信号出力の総和となる。SiPMはこの各APDのフォトン入射時の応答出力波形が均一かつ安定しているのが特徴。
また、SiPMは、すぐれた感度特性を有しています。図1bにSiPMの分光感度特性を示したとおり、波長感度特性が異なるSiPMを搭載した蛍光検出ユニット(広波長対応シリコンディテクター;BSD、近赤外波長シリコンディテクター;RSDとそれぞれ称する)を組み合わせて使用する事により、可視域から近赤外域に渡って、高感度検出器であるGaAsP-PMTと同等かそれ以上の感度を有しています。
ところで、SiPMの場合、フォトン検出効率(Photon detection efficiency、PDE)は下記の式で定義されます。
PDE = QE × FF × AP
QE:量子効率(Quantum Efficiency)
FF:開口効率(Fill Factor)
AP:ガイガーモード駆動が起きる確率(Avalanche Probability)
FFは、SiPM受光面上のAPDの面積と、APDのピクセル間にある不感帯の面積との比で決まります。また、APは、SiPMに印加する電圧に依存し、それが高いほど高いPDEを実現することが可能です。一方で、印加電圧を高くすると、センサー自身のノイズ性能が悪化します。例えば、浜松ホトニクス社製のS13360-3050では、オーバー電圧(ブレークダウン電圧から更に印加する電圧)を3Vから7Vに上げる事でPDEが約1.4倍になりますが、ダークカウントノイズが約2倍、クロストークノイズが2倍以上、アフターパルスノイズが3倍以上に悪化してしまいます[2]。これらのノイズ上昇は、PDE上昇の恩恵を相殺してしまい、結果、S/N比を向上させることはできません。また、これらのノイズ上昇は、SiPMの大きな利点の一つであるフォトン検出の定量性を大きく阻害してしまいます。さらに、ゲインも2倍以上に上がるため、ダイナミックレンジも狭くなります。このように、より高いPDE値やQE値ばかりに注目すると、ノイズの増加という微弱光検出における悪影響が生じてしまいます。そのため、FV4000においては、オーバー電圧を、ノイズと感度のバランスが最良、かつ、ダイナミックレンジを利便性が良い範囲に設定して、SiPMを使用しています。
なお、SiPMのPMTに対する欠点として、ダークカウントノイズの多さが指摘されることがあります。対策として、受光面を-20℃程度にまで冷却する事で、ダークカウントノイズを数キロ~数十キロカウント毎秒に抑えていますが、これでも、冷却タイプのPMTに対しては多いレベルです。しかし、例えば、ダークカウントノイズが10キロカウント毎秒のSiPMを使用して、レーザー走査型顕微鏡でスキャン速度2us/pixel、画素数512pixel/Lineで撮像した場合、1ライン中の約10画素に、それぞれ1フォトン相当のノイズが乗る程度です。これでは、画質にほとんど影響を与えないため、レーザー走査型顕微鏡で使用する上では無視できるレベルと考えられます。
以上、SiPMの特長について述べましたが、一方でSiPMをレーザー走査型顕微鏡検出器として使用する際の問題点として、出力信号に長時間の残留信号が残ることが挙げられます(図8)。この特性は、高速高画素数化において課題となりますが、次章で述べる通り、新規開発した検出回路で解決する事が出来ました。
従来機種では、前章で説明したような、アナログ回路フィルターによる信号平滑化と、画素分解能に必要な最低限程度のADサンプリング周波数(画素周期の1/2程度のサンプリング周期)の組み合わせにより、S/N比と時間分解能とのバランスをとっていました。しかし高速走査のレゾナントスキャナーによるさらなる高画素数化(画素周期短縮)に対応するには技術的に限界でした(図9a)。
そこでADサンプリングレートを従来の12倍である1GHz程度にまで高速化し、1画素周期内に多数のサンプリングを行うオーバーサンプリング方式を採用しました。SiPM出力は検出レンジが広いため、その出力信号の幅もPMTに比べて非常に大きくなります。ADサンプリングの速度レートだけでなく振幅分解の精度も従来の16倍(10bitから14bit化)の高性能デバイスを採用してSiPM信号処理専用に最適化しました。ノイズ分離はアナログ回路フィルターに代えてデジタル信号処理によるフィルターを採用し、信号帯域の犠牲を最小限にしつつノイズを効率よく減衰させて高いS/N比を実現しました。結果、従来方式では分離できなかった高周波成分が分離検出できるようになり、レゾナントスキャナーの画素数を1kあるいはそれ以上に大きくしても、十分な画素分解能(時空間分離能)が得られるようになりました(図9b)。
図9. ノイズ平滑化が画質と画素分解能に与える影響の改善
(a)従来方式のアナログ回路フィルター+低速サンプリングではスキャン速度が高速化するとノイズ平滑化による信号の帯域低下により画素分解能が低下していた。
(b)高速サンプリングとデジタルフィルターによるノイズ除去の組み合わせにより、スキャン速度が高速化しても画素分解能を維持したまま、ノイズを除去することが可能になった
さらに、信号処理にFPGA(Field programmable gate array)を用いて高度な信号処理を適用することが可能になったことを利用し、SiPMの欠点である残留信号による帯域劣化の問題を制約無しに復元させる技術を開発しました。なお、残留信号を無くす技術として、強制的にリセットする方法[3]などが知られていましたが、この新技術は、後述の通り、従来技術よりも複雑な検出回路構成ではなく、且つ、高速に復元させる事が出来ます。
SiPMはフォトン検出のタイミングとその検出個数を極めて高速かつ正確に出力する一方で、出力信号が長時間かけてゆっくり減衰していく欠点があることを触れました。このまま、レゾナントスキャナーによるイメージングに使用すると、1画素の周期が短いため、残留信号が隣接する画素へ漏れこんでしまい、画素分解能(時空間分解能)を劣化させてしまいます(図10a)。ここで、SiPMからの信号出力は、各APDの信号出力の和であり、かつ各APDのフォトン入射に対する応答波形はPMTに対して極めて安定している(毎回、同じ応答波形である)という特長があります。入力に対する応答が一義的に定義できるのであれば、最終的な出力は入力信号と応答波形の畳み込み和で得られることになります。つまり、図10bでフォトン検出タイミングやその個数がx(t)であり、その時のセンサーの応答がh(t)であるとすると、出力y(t)は
y(t)=(x*h)(t)=∑x(i)h(t-i)
となります。残留信号を含むSiPM出力信号y(t)を測定した際、センサー応答h(t)が定義できていれば、この逆変換を行うことで残留信号を含まないフォトン検出イベントx(t)を算出することが可能です。これは、例えば、脳神経科学分野で用いられる、カルシウムイオン動態を定量的に解析する際に、前処理としてシグナル波形のテールを除去するために適用されるデコンボリューションフィルター[4]と、概念としては同じ仕組みです。FPGAには高速かつ高度なデジタル信号処理プロセッサ(Digital signal processing、DSP)が搭載されており、これを活用することでこの逆変換処理の演算をデバイス内でリアルタイムに処理することが可能です。そして、このようにしてセンサー入力をFPGA内部でリアルタイムに逆変換したデータ出力を図10cのように得る技術を開発しました[5]。
この逆変換されたデータ系列を用いて各画素の輝度値を算出することで、図10aにあるような隣接画素への漏れ込みを排除することに成功しました。さらに、この復元フィルターは残留信号の除去だけにとどまらず、本来のフォトン検出応答とは異なる混入ノイズの分離にも効率的に作用しており、信号のS/N比の向上につなげることができました。
図10. SiPMからの残留信号による帯域劣化を復元する技術の概要
(a)SiPMの残留信号により空間分解能が劣化する。
(b)SiPMの入力信号(フォトン検出)と出力信号の関係。
出力信号は、入力信号と応答波形の畳み込み和となるため、出力信号から応答波形を用いて逆変換を行うと入力信号を復元することができる。
(c)SiPMの出力信号に逆変換を行って入力信号の復元を行った例。
具体例として、図11に示すように、逆変換を適用しなかった場合、SiPMの残留信号の影響で、特に高速・高解像スキャンでは画像の画素分解能が劣化します。一方で、逆変換を適用すると、フォトン入力情報を損失することなく時間分解能を復元させ、これを基に画像輝度を構築すると分解能劣化がないレゾナントスキャナー(1024pixel/line)による画像が得られます。
図11. 逆変換処理の有無による画像の違い
逆変換処理を適用しないと、SiPMの残留信号により画素分解能が劣化するが、逆変換処理を適用すると、画素分解能が復元される。
BPAE細胞のアクチン線維
レゾナントスキャナー:画素数1024×1024、平均化64回、
対物レンズ:UPLSAPO40X2/NA0.95(CA:1AU)
励起波長:488nm、蛍光検出波長:500-540nm
逆変換処理前のSiPM信号には、高頻度でフォトン検出イベントが起きている状態では、フォトンを検出後の残留信号が減衰しきる前にさらにフォトンを検出し、その出力がどんどん積みあがっていくパイルアップ効果が生じます。(図10bの青色の線)そのためこのパイルアップ効果も含めて高頻度フォトン検出時の大きな信号振幅をADコンバーターの変換スケール内に取り込まないと、SiPMのせっかくの高いダイナミックレンジの特長を活かすことができません。一方で逆変換処理を正確に行うには、最小信号である1フォトンの小さな信号振幅を細かい分解能ピッチで検出しなければなりません。小さな振幅を細かい分解ピッチで捉えつつ、パイルアップによる大きな信号振幅まで取り込むために、分解能が高いADコンバーターが必要になります。加えて時間軸方向についても非常に高い時間分解能、つまり高速なサンプリングレートで取得した大量のデジタルデータ系列がないと逆変換処理が実現できません。一般にサンプリングレートが1GHz程度の高速ADコンバーターは分解能が8bit程度のものが主流です。そこで、サンプルレート1GHz、分解能14bit(16384諧調)のハイエンドADコンバーターを採用し、またそれにより得られた大容量高速デジタルデータを同じくハイエンドFPGAの高速演算プロセッシングを活用して、この逆演算処理を実現しました。
逆演算処理後の信号(図10bの橙色の線)は残留信号除去による時間分解能復元に伴って、パイルアップした信号が平準化され、検出したフォトン数に対応するパルス出力振幅(波高値)を得ることができます。つまり1フォトン検出時はいつも同じ振幅のパルスが出力され、同様に2フォトン同時検出時はその2倍の振幅のパルスが出力され、以降同様に同時にフォトン検出されれば出力パルスは1フォトン時の整数倍のパルス振幅で出力されます。よって、ある時間区間内にN個のフォトンが検出されたとすると、これら出力パルスの時間積分は、1フォトン検出時のパルスのN倍の積分強度として得ることができます。これは極短時間に大量のフォトンを検出した場合にもこの関係性が成立します。
その結果、フォトンを離散的に検出できるS/N比でありながら、短時間に非常に大量のフォトンを検出した場合にもこの精度で蛍光光量を検出することができます。実力として1ギガフォトン毎秒まで、飽和することなくこのS/N比で光量検出することができます。従来のシングルフォトンカウンティング検出法(麻痺型、非麻痺型)[1]が低頻度のフォトン検出レートでしか適用できなかったのに対して、今回の技術は非常に明るい標本を高速にイメージングする場合にもフォトンカウンティング検出法に匹敵するS/N比で検出できるHDRフォトンカウンティングを実現しました。(図12)
図12. 励起光強度と出力の関係
励起光強度を強くするほど、それに応じて単位時間あたりに検出器に入射するフォトン数は増加する。しかし、従来のシングルフォトンカウンティング検出法ではフォトン入射レートが低頻度であっても、すぐに出力信号の飽和が起こる。SilVIRは高頻度の入射レートでも飽和せず高いダイナミックレンジを実現できる。なお、シングルフォトンカウンティングのパルスペア分解能は1.2nsで計算。
SilVIRディテクターは、SiPMと、高速サンプリング・デジタルプロセッシングを組み合わせたものです。前章で、理想的なレーザー走査型顕微鏡の蛍光検出と、従来製品の理想との乖離について述べましたが、SilVIRディテクターの搭載により、理想的なレーザー走査型顕微鏡蛍光検出に飛躍的に近づくことが出来ました。
理想的な検出器は、PDEが高効率であり、かつ、センサーや電気回路ノイズが存在しないことです。
SilVIRディテクターは、2種のSiPMを使用する事により、可視域だけでなく、近赤外領域でもダイナミックレンジとS/N比のトレードオフなしに高いPDEを実現しています。また、SilVIRディテクターでは電気回路系のノイズを1フォトン以下に十分に抑え込んでいることや、暗電流も無視できるくらい小さいことから、ノイズ成分としてはフォトンノイズが支配的となります。すなわち、検出フォトン数から、以下の式により、凡そのSilVIRディテクターで撮像した画像のS/N比を概算する事が出来ます。
S/N比 = 検出フォトン数/√検出フォトン数
このように、S/N比の数値化が今までより簡単に出来るため、検出フォトン数は、画像の共有・議論や、日をまたぐ撮像実験時の画質の再現などに、大いに役立つ指標になり得ます
検出光量と輝度とが定量的尺度で関連付けられている検出システムが理想ですが、従来技術では、検出光量と輝度との関係性が不明瞭・不確定である問題がありました。SilVIRディテクターは、検出光量と輝度との間を、「フォトン数」という明確な定量尺度で繋いでいます。
最低1フォトンから多量フォトンまで、レンジの広い検出システムが理想ですが、従来技術では、高ゲイン設定時はレンジが狭く、低ゲイン設定時はレンジが広くなるもののS/N比とのトレードオフになってしまう問題がありました。
SilVIRディテクターは、高ゲインなため最低1フォトンから検出できつつも、レンジが広いため、多量フォトンも短時間で検出可能です。
複雑な設定調整が不要であることが理想ですが、従来の技術では、蛍光の明るさに応じてゲイン(HV)を調整する必要がありました。
SilVIRディテクターは、スキャンスピード、画素数、フレーム積算(または平均)回数以外は設定不要で、煩雑な最適化作業無しに検出が可能です。
SilVIRディテクターで検出した蛍光シグナルが、フォトンが離散的に検出でき(定量的であり)、かつ、高S/N比であることは、取得蛍光画像の輝度ヒストグラムを見ることで確認できます。
図.13は蛍光染色した標本をFV4000のSilVIRディテクターで取得した画像ですが、その輝度ヒストグラムには櫛状のピークがあり、各画素の輝度値はこれらのピークとなる輝度値に集中的に分布していることが分かります。このピークは、各画素において前述の逆変換処理後の信号に含まれるフォトン検出パルスを検出した数に対応しています。つまり、ある画素でフォトン検出パルスが1パルス分であったならば、その画素の輝度はヒストグラムの1フォトン目のピーク近辺の輝度値に換算されます。同様に、ある画素でフォトン検出パルスが2パルス分であったならば、その画素の輝度はヒストグラムの2フォトン目のピーク近辺の輝度値に換算される、というように、輝度値が高くなっても各フォトン検出数のピーク位置に集中的に換算されるのです。当然、これら一連のプロセスにおいてノイズや誤差は僅かに含まれるため、フォトンパルスが多数検出された場合はこれら誤差が累積するため、高輝度になるとこの櫛状ピークは分離されなくなってきます。しかしそれでもノイズや誤差が1フォトン検出の強度に対して十分に小さく抑えられているからこそ、このようにフォトンを離散的に検出している櫛状ピークが表れているといえます。仮にノイズが1フォトン検出強度の1/3程度のばらつき標準偏差で含まれている想定で輝度分布をシミュレーションしてみると、わずか3、4フォトン目のピーク程度でこのピークの分離は消失します。
このように、光の最小量子単位である1フォトンがノイズから十分なS/N比で分離して検出できているという事は、画像の明るさは、その画素で検出されたフォトン数に応じた明るさのみで構成されており、混入したノイズが画像の明るさに対して与える影響は無視できる(実際、検知できない)と言えます。すなわち、従来のフォトンカウンティング法と同等の高いS/N比の画像が取得できます。さらに、従来のフォトンカウンティング法では、極微弱な蛍光を長時間の画素滞留時間で検出する場合にのみ有効であったのに対し、SilVIRディテクターでは、強度の高い蛍光を高速にイメージングする場合でも、この最良のS/N比で画像化が可能で、正確な蛍光イメージングにとって、画期的な検出法であるといえます。
なお、FV4000では、図13のグラフ横軸の輝度値を、フォトン数に換算し、画像上で表示することができます。輝度ヒストグラムの櫛状のピークが等間隔であるため、櫛間の幅から輝度値をフォトン数に換算することが可能であるからです。具体的は、1フォトン=32カウント程度になるように設計されています。従来のフォトンカウント検出では1フォトン=1カウントとして表現されることに対し、少ない検出フォトン数の場合でもある程度の階調を得る事ができ、検出フォトン数が少ない画像の場合でも積算または平均化の回数を重ねる事によって、フォトン数の情報が誤差に埋もれないまま、S/N比の良い画像を得る事ができます。
図13. FV4000のSilVIRディテクターで取得した蛍光画像とその各画素の輝度値のヒストグラム
ヒストグラムは櫛状の度数分布のピークを示し、フォトンが離散的に検出されていることが示されている。また、そのピークは32カウントごとの等間隔となっている。
この章では、SilVIRディテクターで実際に撮像されたレーザー走査型顕微鏡画像を紹介します。
図14は、標準的な蛍光強度になるように同じレーザーパワーで励起した緑色蛍光をSilVIRディテクターとGaAsP-PMTで撮像した比較です。比較的強い蛍光強度の場合(約128フォトン)は、どちらも、同等の画質で撮像が可能です。SilVIRディテクターで撮影した画像はでは、輝度をフォトン数で表示することができます。
図14. SilVIRディテクターとGaAsP-PMTにより、比較的強い蛍光強度のサンプルを撮影した例
BPAE細胞のアクチン線維
ガルバノスキャナー:2µs/pixel
励起:488nmレーザー、蛍光検出波長:500 - 540nm
(a)SilVIRディテクターによる画像。最大検出フォトン数が約128フォトン/2µs。
(b)(a)と同一のサンプルを同一のレーザーパワーで励起し、550VのGaAsP-PMTで取得したもの。蛍光強度が強い場合は、SilVIRもGaAsP-PMTも同等のS/N比で画像取得できる。
一方で、図15は、最大蛍光輝度が12フォトン程度の微弱な蛍光を、SilVIRディテクター、および、GaAsP-PMTで撮像した結果です。SilVIRディテクターの方がよりノイズが抑えられて撮影できていることがわかります。また、輝度ヒストグラムを確認すると、SilVIRディテクターのヒストグラムは櫛状になり各画素において正確にフォトン数が検出されていることが確認できることに対し、GaAsP-PMTでは、検出フォトンに対して画像輝度がランダムとなっており、フォトン検出の定量性に欠けることがわかります。また、GaAsP-PMTの場合は検出する蛍光の強度に応じてHVを調節する必要がありますが、SilVIRディテクターの場合は、その調節の必要がありません。
図15. SilVIRディテクターとGaAsP -PMTにより、微弱な蛍光強度のサンプルを撮影した例
PtK2細胞の微小管
ガルバノスキャナー:2µs/pixel
励起:488nmレーザー、蛍光検出波長:500 - 540nm
(a)SilVIRディテクターによる画像。最大検出フォトン数が約12フォトン/2µs。
(b)(a)と同一のサンプルを同一のレーザーパワーで励起し、700VのGaAsP-PMTで取得したもの。微弱蛍光をSilVIRディテクターを用いて撮影した画像の輝度値ヒストグラムは櫛状の構造を示す。これはフォトン数が正確に検出されたことを示しており、GaAsP-PMTよりも高いS/N比で画像を取得できた。
SilVIRディテクターは、特に微弱蛍光の撮影に適しています。特にレゾナントスキャナーを使用した画像取得の場合は、画素滞留時間が極端に短くなり検出フォトン数が小さくなることから高S/N比の画像を撮影するのが困難でしたが、SilVIRディテクターがこれを解決しました。図16は、レゾナントスキャナーで画素数1024×1024で撮像した画像で、それぞれ平均化回数を変えて画像取得しています。検出フォトン数が数フォトンレベルでも、画質の良いレゾナントスキャナー画像が得られ、少ない平均化(または積算)回数でも、ガルバノスキャナーで取得した画像に匹敵する画質を得る事ができます。これは、画像取得の効率化にも繋がります。
図16. 1Kレゾナントスキャナーによる画像をSilVIRを用いて取得した画像
(a)平均化をせず130msec/frameで取得した画像。
(b)平均化2回262msec/frameで取得した画像。
(c)平均化4回522msec/frameで取得した画像。
SilVIRディテクターはレゾナントスキャナーを使用しても、高いS/N比の画像を取得できるため少回の平均化で高画質の画像を得ることができる。これにより画像取得効率を向上させることが可能。
広範囲の高解像画像を取得するためには、隣り合った視野で撮影した画像の貼り合わせという手法がよく用いられます。この1視野ごとの画像をガルバノスキャナーで撮影するには時間がかかりますが、これをSilVIRディテクターを利用した高S/Nのレゾナントスキャナーで撮影すると、効率よく画像を取得できます。図17の例では、4CH 画素数1K×1Kの画像をZ8スライスで5×5の25か所で撮影したものを貼り合わせた画像です。ガルバノスキャナーを使用すると30分以上かかった画像取得が、レゾナントスキャナーを使用すると6分以内に撮影することができました。
図17. SilVIRディテクターを用いた効率的な貼り合わせ画像取得。
レゾナントスキャナーで取得したZスタック画像を貼り合わせた画像の最大強度投影画像。SilVIRディテクターはS/N比が高いため、大量の画像を効率的に取得できる。
従来のPMTによる撮像では、ダイナミックレンジが限られているため、微弱蛍光の部分と強い蛍光の部分が混在しているサンプルを撮影する場合は、どちらかを優先にする必要がありました。例えば、図18の例では、神経細胞体と神経線維を撮影する場合に、蛍光輝度が弱い神経線維の構造をクリアに撮影するためには、細胞体の輝度飽和が避けられませんでした。SilVIRディテクターの場合、どちらも、ダイナミックレンジに入るように撮影が可能で、ガンマ補正を行うことによって暗い部分を強調して表示することも可能です。
図18. SilVIRディテクターを用いた高ダイナミックレンジ画像
(a)従来の検出器による画像では、蛍光強度が強い細胞体が飽和しやすいという特徴があった。
(b)SilVIRディテクターを使用して撮影した画像では、蛍光強度が強い細胞体と弱い神経線維の両方がダイナミックレンジに入る。微弱な蛍光の神経線維の部分はガンマ補正を行うことで、強調して表示することができる。
SilVIRディテクターが、可視域~近赤外域に渡って高感度・高S/N比であることを活かして、クロストークの影響を回避しつつ多色同時撮像が可能になります。特に、730nm励起の蛍光色素は、GaAsP-PMTではほとんど撮像が不可能ですが、SilVIRディテクターでは高S/N比の画像を取得する事ができます。なお、FV4000では、最大6CH検出器を搭載する事が出来るため、6色同時の撮像も可能です(図19)。
図19. SilVIRディテクターが搭載されたTruSpectralを使用して撮影された6色多重染色蛍光画像
可視域から近赤外域までの蛍光マルチカラー同時撮影が可能。
従来の検出器と比較して、SilVIRディテクターには以下のような多くの利点があります:
これらの利点により、光毒性を押さえつつ、高S/N比の高速・高解像の画像を、従来の検出システムより簡単に取得出来る様になりました。また、画像輝度値がフォトン数という定量的な値になっているため、撮像条件の共有・再現をよりスムーズになります。
更に、SiPMは、将来的な技術発展の可能性を大いに秘めています。例えば、PDEを決めるパラメータの一つであるFFについては、SiPMと似た構造であるSPAD(Single Photon Avalanche Diode)アレイセンサーで研究・開発が進んでいる、受光面上面へのマイクロレンズアレイ搭載や、guard-ring-sharing技術[6]などにより、大幅に改善出来る可能性があります。PDEが上がる事で、撮像条件を設定する上で複雑なトレードオフの関係であった「S/N比」「検出レンジ」「高速性(および高画素数化)」を、よりバランスの取れた状態設定し易くする事が出来ます。
このように、SilVIRディテクターは従来の検出システムの課題を飛躍的に改善できることに加え、将来発展の可能性も持つことから、次世代レーザー走査型顕微鏡のスタンダードに成り得ると考えています。
エビデントでは、SilVIRディテクターの実力をいち早く試してみたい研究者のみなさまに、実機デモのご案内やアプリケーションニーズに合わせたコンサルテーションを行っております。イメージング機器の選定や導入にお悩みの場合は、お気軽にお問い合わせください。
久保 博一
株式会社エビデント 開発部門 先進技術
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