ほんの数年前、Laurent Formeryさんはウニの画像で第4回Image of the Yearイメージ・オブ・ザ・イヤー 2020コンテストに入選しました。今回の2022年度コンテストでは、見事なヒトデの画像でグローバル最優秀賞を受賞し、光学顕微鏡イメージングコンテストのスターになりました。獲得した賞品は、エビデント製の新品のSZX7実体顕微鏡と顕微鏡用デジタルカメラDP23です。
このインタビューで、Laurentさんは受賞作品の詳細、科学のアートへの取り組み、顕微鏡レンズ越しに見る海洋生物について詳しく語ってくれます。
Q:受賞画像は何を表しているのでしょうか?
Laurent:この画像は、ヒトデ幼生(Patiria miniata)の神経系を表しています。ヒトデの神経系の主な特徴は、橈骨神経束というニューロンの長い3本の束で、これが口側の5本の各腕の正中線に沿って走っています。この5本の神経束は、口の周囲を囲むように神経環でつながっています。神経束から、定間隔で並んだ外側神経が各腕の先端まで伸びています。
Laurent Formeryさん(米国)が撮影したこのヒトデ幼生(Patiria miniata)の神経系の画像は、Image of the Year 2022第4回イメージ・オブ・ザ・イヤーコンテストのグローバル最優秀賞を獲得しました。
Q:この画像と題材の魅力について教えていただけますか?
Laurent:見た目と同じくらい意外ですが、ヒトデは脊椎動物(私たちが属する生物種)の近縁種です。一見したところ、私たちとこんなに違っているものはないように見えます。ヒトデやその仲間(ウニ、ナマコ)を含む生命の木の一族の中で進化が進み、この動物に5つの対称性がもたらされて、私たちや他の同族動物とはまったく異なる形態になっています。非常に異なっているため、私たちはヒトデのことをほとんど分かっていません。神経系がどのようにつながって、どのように機能し、私たちと比べてどうなのか、といったことです。
Q:この画像はどのようにして撮像したのですか?
Laurent:この画像は、神経系のマーカーである抗アセチル化チューブリン抗体を使ったホールマウント免疫染色を表しています。サンプルはとても大きく(約1 cm)、5倍の倍率で共焦点顕微鏡を使って撮影したでタイルスキャン複数画像を貼り合わせを使い、5倍の倍率で撮像取得しました。口側-反口側軸に沿って画像スタックを取得し、Fijiソフトウェアを使って深さを色分けしたZ投影を行いました。この色分けによって写真で色あいが見られ、これは口側(口がある側)に対する蛍光信号の距離に対応しています。
Q:この画像の撮影で難しかったのはどのような点ですか?
Laurent:ヒトデは透明な動物ではないので、蛍光観察法で撮像するのは難しいです。そのため、その神経系がどのようなものかを理解しにくくなっています。この特殊な画像のために、私たちのラボで開発したハイドロゲルベースのクリアリングプロトコルを使ってヒトデを透明化しました。このクリアリング透明化処理によって、共焦点蛍光顕微鏡で動物全体を撮像し、神経組織の完全に一体化した様子をみることができました。
Q:この画像をImage of the Yearイメージ・オブ・ザ・イヤーコンテストの応募作品に選んだ理由は何ですか?
Laurent:ヒトデとその仲間(棘皮動物群)が持つ5つの対称性が見た目に美しいと思います。5つの部位を持つ動物の体全体を撮影すると、美しい写真になるものです。これまで撮影したヒトデやウニの中でも、これは一番満足のいくものでした。動物の姿が完全に保たれています。埃やごみがあるとアーチファクトが生じることがありますが、これにはありません。また、扱い慣れているサンプルよりもはるかに大きいものでもあります。まるで成体のヒトデのようで、この写真を見れば、見えるものについての理解を深めやすくなります。
Q:この画像について伝えたいメッセージはありますか?
Laurent:海にあふれる多様で魅力的な動物について、私たちは理解することはおろか、ほとんど知りません。研究でこのような動物の美しさを見せることによって、これら多様性と、研究が必要な理由、そしてこれが最も重要ですが、それを守ることの認識を高められることを願っています。
Q:あなたが初めて顕微鏡の使い方を習ったのはいつ、どこでですか?
Laurent:私は経験を積んだ発生生物学者で、フランスのソルボンヌ大学の海洋実験部門であるObservatoire Océanologique de Villefranche-sur-Merでの博士課程中に、共焦点顕微鏡の使い方を学びました。
Q:顕微鏡でアート作品の創作をしようと思ったのはいつからですか?
Laurent:幸運にも素晴らしく美しい動物を研究で扱っているので、最高に美しい画像を撮影してその良さを十分発揮させようとするのは自然なことでした。
Q:顕微鏡を使ったアート作品の創作を始めてどれくらいになりますか?
Laurent:私がイメージングコンテストに初めて応募したのは、Evidentエビデント(当時オリンパス)が主催した第2回のイメージ・オブ・ザ・イヤーのImage of the Year Award 2020でした。そのときは、ウニの写真で入選を獲得しました。そこから私自身の技術も進歩し、その点を審査員の皆さんに評価していただけたのが分かって本当に嬉しいです。
Laurent Formeryさんが撮影したウニの画像は、Image of the Year Award 2020第2回イメージ・オブ・ザ・イヤーで入選を獲得しました。
Q:顕微鏡のどんなところに魅力を感じますか?
Laurent:顕微鏡観察は異なる世界につながる窓です。肉眼では見逃してしまう小さなものの美しさを明らかにしてくれます。最も興味をそそられるのは、海水のサンプルを採取して(プランクトンネットを使うのが理想的)、複式顕微鏡で観察することです。海水は生命で満ちあふれています。そこに見える微細な藻類、幼虫、動物の中には、驚くべき形状、色、形態をもつものがいます。顕微鏡なくしては思いもよらない魅力的な世界です。また、顕微鏡はもっと抽象的なことも見せてくれます。蛍光イメージングでは、神経系など構造自体が持つ美しさが明らかになります。
Q:その興味の元は何ですか?
Laurent:植物、花、昆虫は美しく魅力的だといつも思います。そして私は科学者であり顕微鏡をすぐに使えるので、もっと小さなレベルで生命の美しさを称賛することもできます。
Laurent Formeryさんが撮影したウニの画像は、Image of the Year Award 2020第2回イメージ・オブ・ザ・イヤーで入選を獲得しました。
Q:ご自身の職業でイメージングとの関わりはありますか?それとも、趣味や芸術として、あるいは情熱を傾ける対象でしょうか?
Laurent:現在はスタンフォード大学のLowe Laboratoryのポスドク研究員です。動物の進化を分子的観点から研究し、古代の遺伝系のどのような一時的変異によって、まったく異なる組織を持つ動物群に進化できたかを理解しようと努めています。イメージングは私の研究の鍵です。週に10時間くらいは顕微鏡を使っています(ほとんどは共焦点顕微鏡です)。
Q:現在、専門分野で取り組んでいることについて教えていただけますか?
Laurent:私の研究対象は動物のボディプランです。重点を置いているのは私たちの近縁種である無脊椎動物群で、特に棘皮動物(ヒトデ、ウニ、ナマコ)です。私たちとはまったく違ってみえますが、これらの動物は私たちと同じ遺伝的手段を使って成体を形成しています(同じ構造遺伝子を使っています)。
成体構造の違いは、発生過程における同じ遺伝子のつながりの違いから来ています。最近行っている研究では、脊椎動物の前後軸を作る遺伝子が、棘皮動物ではどのように変化して独特な五放射相称になっているかについて扱っています。この研究は査読前の原稿で読むことができ、近日中に公開予定です。
要約すると、脊椎動物は前後軸を形成して、頭部や胴体など体の異なる領域を形作ります。棘皮動物の場合、頭部遺伝子だけが活性化し、胴体は完全になくなっていることが分かりました。このようにして、ヒトデなどの棘皮動物は海底を這うウォーキングヘッドのように見えます。
皆さんも、次回のImage of the Year Awardイメージ・オブ・ザ・イヤーでのスターを目指してみませんか? になりましょう
Image of the Yearイメージ・オブ・ザ・イヤーコンテストに関する来月のお知らせにご注目ください。当社の光学顕微鏡イメージングコンテストは拡大し続けていて、皆さんが顕微鏡レンズ越しに科学のアートをどのように捉えるかを見るのが待ち遠しいです。
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