当社は、より健康で安全な世界の実現に役立つ顕微鏡の設計に尽力しています。 長期宇宙ミッション中に行われた新しい研究のおかげで、今やオリンパスの共焦点レーザー走査型顕微テクノロジーは、科学者が私たちの住む世界を超えた物事を研究するのを手助けしています。
例として、細菌バイオフィルムの詳細や宇宙飛行士の健康とシステムの安全性に及ぼす影響に関する、NASAの研究実験が挙げられます。 宇宙飛行実験内容と、共焦点顕微鏡で実験の開始を推進した方法を詳説します。
地球上と宇宙で見つかったバイオフィルムの調査
バイオフィルムとして知られる表面粘着性細菌集団は、身の回りの至る所で見つかります。 地球上でよく見られるバイオフィルムは、川辺の石に付いた粘液、排水口の汚れ、歯に形成される歯垢などです。
しかし、無重力環境で細菌は物の表面に付着できるのでしょうか。
1998年、テキサス州立大学のRobert “Bob” McLean教授は、中学二年生のグループのサイエンスフェアプロジェクトを手伝いながら、この疑問の答えを探し始めました。 彼が手掛ける微小重力下でのバイオフィルム実験が開始されたのは、スペースシャトルSTS-95がフロリダ州のケネディ宇宙センターを飛び立った1998年10月29日のことでした。
STS-95の微小重力下でのバイオフィルム実験結果を集めるBob McLean教授と2人の息子
細菌が微小重力下でバイオフィルムを形成可能であることを示した彼らの最初の論文は、米航空宇宙局(NASA)の目に留まりました。
Bacterial Adhesion and Corrosion(BAC)宇宙飛行実験
宇宙飛行士たちが長期宇宙飛行を経て遥か彼方の目的地の探査を開始すると、NASAが最優先するのは、ミッションを通して彼らの安全と健康を維持することです。 宇宙船でのバイオフィルムの形成に懸念を抱いたNASAは、Bobに新たな研究を依頼しました。
Bacterial Adhesion and Corrosion(BAC:細菌の付着と腐食)宇宙飛行実験は、2020年12月にSpaceX CRS-21で開始され、Bobが主任研究員、 アリゾナ州立大学のCheryl A. Nickerson氏が共同主任研究員を務めます。 チームメンバーにはそのほかに、テキサス州立大学のStarla Thornhill氏、アリゾナ州立大学のJenn Barilla氏、Jiseon Yang氏、Rich Davis氏、およびSandhya Gangaraju氏、Bobの息子Alistair McLean氏、NASAのMark Ott氏がいます。
チームは共焦点顕微鏡やその他のテクノロジーを使用して、バイオフィルムの形成に対する宇宙飛行の影響について研究しています。 この実験は、宇宙でのバイオフィルムに関する以下の重要な疑問を解決する糸口になるでしょう。
- バイオフィルムは国際宇宙ステーション(ISS)の水処理システムの表面を腐食させるのか?
- バイオフィルムを除去するための有効な殺菌方法は何か?
- 微小重力条件下でのバイオフィルムの成長とステンレス鋼表面の腐食に関与する細菌遺伝子はどれか?
宇宙飛行中の健康と安全に対するバイオフィルムのリスク
バイオフィルムの除去は難しい場合があり、長期にわたり宇宙飛行する乗組員の健康への懸念につながるため、これらの疑問を解決することは重要です。 Bobは次のように説明します。「表面から粘着性細菌を取り除こうとすると、薬物耐性と消毒耐性が高くなる傾向があります」
BAC宇宙飛行実験で使用された緑膿菌や大腸菌(E. coli)などの微生物は、次のような性質のバイオフィルムを容易に形成します。
- 従来のクリーニング方法に対して高い耐性を持つようになる性質
- 水処理システムを汚染し、生物付着や腐食などの問題につながる可能性がある性質
長期宇宙飛行時には、飲料用や個人衛生用に安全な水を製造するために、水処理システム内の微生物増殖を制御できることが非常に重要です。
Bobは次のように話します。「新鮮な水を宇宙に運ぶのはいつでも費用が膨大になるので、水はすべてリサイクルされています。 原則的に尿と呼気の水分は収集、処理、精製されて、飲料水として再利用されます。 通常、細菌はすべての人間(宇宙飛行士も含む)とほとんどの環境に関連して存在しているので、ある時点で細菌が人体でコロニーを形成し、問題を引き起こすことになります」。
バイオフィルムの形成も、微生物を原因とする感染症の経過において重要な特徴です。 管理されていない場合、微生物バイオフィルムは生命維持装置を損傷させたり、宇宙飛行士の健康リスクとなったりする可能性があります。
機器についても懸念されます。
Bobは次のように述べています。「バイオフィルムの問題は、乗組員の健康だけでなく機器損傷の可能性にも関係します。 火星に向かう場合、2、3年の実験を行うことになります。 惑星の相対的な位置によって、火星への飛行は4~6か月かかります。 地球と火星は太陽をはさんで反対側に位置する場合があります。 そこまで行ってから向きを変えて戻ってくることはできません。 もう一度一直線に並ぶまで、約1年待たなければなりません。その間の宇宙船と乗組員の健康をすべて考慮する必要があるのです」。
この研究は、長期宇宙飛行におけるバイオフィルムの新たな減滅策の構築に寄与することでしょう。
KSCで宇宙飛行植菌を行うBob McLean教授。 アリゾナ州立大学の2人のチームメンバーが補助しています(立っているのはJiseon Yang氏、座っているのはSandhya Gangaraju氏)。
共焦点顕微鏡を使用する宇宙飛行実験の準備
宇宙飛行実験に先立って、Bobとチームメンバーはテキサス州立大学でオリンパスのFV1000共焦点レーザー走査型顕微鏡と60倍の水浸対物レンズを使用して、ISS水処理システムの飛行用金属製品に付着した細菌バイオフィルムの3D画像を取得しました。
この画像によって、バイオフィルムの位置、細菌集団、水和したバイオフィルムの構造を識別することができました。 細菌は蛍光タンパク質の遺伝子を持っているため、共焦点顕微鏡を使うと簡単に見分けられました。
例えば、緑膿菌には緑色蛍光タンパク質(GFP)が、大腸菌にはmCherryが含まれています。 下の画像では緑色と赤色がはっきりと見えます。
飛行用金属製品に付着したバイオフィルムの共焦点画像。 左:テフロンに付着したバイオフィルム(緑膿菌:緑色)。 右:ステンレス鋼に付着したバイオフィルム(大腸菌:赤色、緑膿菌:緑色)。
この実験データは、NASAがSpaceX CRS-21で行う宇宙飛行実験として認めるという重大な転換点になりました。 現在、彼らはテキサス州立大学でオリンパスの共焦点顕微鏡を使用し、バイオフィルム実験のさらなる研究や、その他のプロジェクトを実施しています。
バイオフィルム研究に共焦点レーザー走査型顕微鏡を使用する利点
Bobとテキサス州立大学のチームは、使用する顕微鏡をFV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡にアップグレードしました。 テキサス州立大学の中核施設、Analysis Research Service Center(ARSC)を管理するAlissa Savage氏は、オリンパスの共焦点顕微鏡を好む理由を話してくれました。
「主に2つの点があります。 まず使い勝手がよいこと。 FV1000からFV3000に変えてみてわかったのですが、とても使いやすくなっています。素晴らしくね。 それから、技術者が研究する上で疑問や何かがあるときの有用性です。 この2つの点で、オリンパスの製品は他社のものより優れています」
FV3000共焦点レーザー走査型顕微鏡で新しいユーザーにトレーニングするAlissa Savage氏
Bobはバイオフィルム研究に共焦点イメージングが重要である理由について、次のように強調します。
「電子顕微鏡の方が解像度は高いですが、共焦点の利点は水和状態や生体さえも観察できることです。透過電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡の高真空要件による脱水アーチファクトは発生しません」。
「私たちが扱うサンプルに大きな効果を発揮します」と述べました。