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アプリケーション

シリコーン浸対物レンズを用いたマウス胚発生過程における長時間3Dライブイメージング


マウス胚発生過程における長時間3Dライブイメージング

発生生物学の研究分野の一つである胚発生は顕微鏡の進化とともに様々な現象が解明されてきました。特に共焦点顕微鏡が汎用化されてからは、受精卵から胚発生過程における1細胞内のタンパク質やDNAなどの分子をシャープ且つ3次元的に蛍光イメージングができるようになりました。
共焦点顕微鏡を用いることで、日々研究が進む胚発生では、3次元的な蛍光イメージングに加え、経時的な動態変化を捉える長時間3Dライブイメージングが求められています。オリンパスは、より高精細な長時間3Dライブイメージングを実現する“シリコーン浸対物レンズ”を開発しました。
ここでは、近畿大学 生物理工学部 遺伝子工学科 発生遺伝子工学研究室 准教授 山縣 一夫博士らが2014年6月に研究成果として「Stem Cell Reports」で論文発表された内容をもとに、シリコーン浸対物レンズを用いてin vitro実験下で約4日間にわたってマウス受精卵から胚盤胞形成までの過程を高精細に3Dライブイメージングした一例をご紹介させていただきます。

シリコーン浸対物レンズアプリケーション
メチローマウスを用いた着床前初期胚発生過程の長時間3Dライブイメージング

1)エピジェネティクスを生きたまま可視化できるマウス“メチローマウス”の作製

近畿大学 生物理工学部 遺伝子工学科 発生遺伝子工学研究室 准教授 山縣 一夫博士らはメチル化DNAを認識するMBD1(Methyl-CpG Binding Domain protein 1)タンパク質のMBDドメインに赤色蛍光タンパク質を融合した蛍光プローブを作製。この遺伝子をジーンターゲッティング法によって全身で遺伝子発現することが知られているROSA26遺伝子座にノックインすることで、マウスの全身でこのプローブを発現した遺伝子改変マウス“メチローマウス”を開発しました。

Fig1. メチル化DNAを可視化したメチローマウスの新生児(黄矢印)、励起光を照射してフィルターを介して見ると全身が赤く光ります(右図)
Fig1. メチル化DNAを可視化したメチローマウスの新生児(黄矢印)
励起光を照射してフィルターを介して見ると全身が赤く光ります(右図)

2)60倍シリコーン浸対物レンズを用いた着床前初期胚発生過程の長時間3Dライブイメージング

山縣 一夫博士らは、上記Fig1“メチローマウス”より得られた細胞の着床前初期胚発生過程を約4日間にわたって共焦点顕微鏡で連続的に3Dライブイメージング実験を行いました。
この3Dライブイメージング実験に用いられた対物レンズは、生体屈折率(ne≒1.38)に近いシリコーンオイルの屈折率(ne≒1.40)をもとにオリンパスが独自技術を駆使して光学設計したシリコーン浸対物レンズです。シリコーン浸対物レンズは、これまでオイル対物レンズや水浸対物レンズで生じていた生体標本との屈折率ミスマッチで起きる球面収差をより低く抑え、より深部での高解像度の蛍光イメージングを実現します。またシリコーンオイルは37℃の環境で4日間続けても、乾いたり固まったりしないため、長時間・高解像で安定した3Dライブセルイメージングを実現します。
山縣 一夫博士らは、これまでオイルレンズや深部観察のスタンダードであった水浸対物レンズを用いてライブイメージングを行っていましたが、新たにシリコーン浸対物レンズを用いることで、1細胞期受精卵から胚盤胞期までの約4日間、蛍光標識された核内のメチル化DNA (mCherry-MBD-NLS)を表層から深部まで高精細に長時間で安定した3Dライブセルイメージングすることに成功しました。

Fig2. メチローマウスを用いた着床前初期胚発生過程のライブセルイメージング画像 核内のメチルDNA(mCherry-MBD-NLS)の変化を約4日間観察
Fig2. メチローマウスを用いた着床前初期胚発生過程のライブセルイメージング画像
核内のメチルDNA(mCherry-MBD-NLS)の変化を約4日間観察

Movie1. 核内のメチルDNA(赤:mCherry-MBD-NLS)と細胞(緑:CAG-EGFP)の変化を82時間連続で観察
開始から約21時間後の2細胞期で胚性遺伝子の活性化(赤)が開始

Movie2. 核内のメチルDNA(mCherry-MBD-NLS)胚盤胞期での立体構築イメージ
上記、Fig2やMovie1は長時間連続撮影においても 蛍光褪色が最小限に抑えられ、核内のメチルDNAを鮮明にイメージングできたことを示している。Movie2では、高開口数1.3でありながら長作動距離 0.3mmでもあるため、100μmサイズの胚盤胞全景を立体的に観察できた。

撮影条件:
顕微鏡システム: 倒立型リサーチ顕微鏡IXシリーズ
対物レンズ: シリコーン浸対物レンズUPLSAPO60XS
共焦点ユニット: CSU-X1(横河電機 社製)
CCDカメラ: iXON3 DU897E-CS0(Andor Technology 社製)

アプリケーションノート制作にご協力賜りました先生:
山縣 一夫准教授 近畿大学 生物理工学部 遺伝子工学科 発生遺伝子工学研究室

上記研究内容の詳細は下記文献をご参照下さい。

論文出典:Stem Cell Reports. 2014 Jun 3; 2(6): 910–924.
ジャーナル:「Stem Cell Reports」
発表日:2014年6月3日
タイトル:Heterochromatin Dynamics during the Differentiation Process Revealed by the DNA Methylation Reporter Mouse, MethylRO
著者:Jun Ueda, Kazumitsu Maehara, Daisuke Mashiko, Takako Ichinose, Tatsuma Yao, Mayuko Hori, Yuko Sato, Hiroshi Kimura, Yasuyuki Ohkawa and Kazuo Yamagata

深部・高精細な長時間3Dライブイメージングを実現するシリコーン対物レンズ

オリンパスはより深部・高精細の観察を実現するシリコーン浸対物レンズUPLASAPO 30X/40X/60X/100Xをラインナップしています。シリコーンオイル(ne≒1.40)の光の屈折率はオイルや水よりも生体(ne≒1.38)に近いので、屈折率ミスマッチで起きる球面収差を抑えて、生体内の深いところの高解像観察が可能になります。
またシリコーンオイルは乾いたり固まったりせず、浸液補充の手間が必要ありません。シリコーン浸対物レンズは、電動倒立型リサーチ顕微鏡IXシリーズのZドリフトコンペンセータIX-ZDCにも対応し、温度変化や薬液投与に影響されることなく、フォーカスを維持したまま、長時間安定した高解像度での3Dイメージングを実現します。
オリンパスが販売する標本透明化溶液SCALEVIEW-A2(ne≒1.38)とシリコーンオイル(ne≒1.40)の屈折率は接近しており、高NAを実現したシリコーン浸対物レンズは透明化標本の観察においても最高のパフォーマンスを発揮します。
作動距離0.2mmをもつ100倍シリコーン浸対物レンズUPLSAPO100XSは約120nmのXY分解能を実現する超解像FV-OSR(Olympus Super Resolution)イメージングにおいて数十マイクロメートル深部の細胞内構造の超解像観察が可能です。

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