近年、ヒトiPS細胞をはじめとする多能性幹細胞から、オルガノイドと呼ばれるミニ組織・ミニ臓器を試験管内で創出する技術が飛躍的に進歩しており、基礎的な発生生物学から疾患のモデル化や創薬にいたるまで、多岐にわたる活用が大きく期待されています。
一般に、オルガノイドが形成される際には、自己組織化と呼ばれる半自律的な過程をたどって、構成する細胞が空間的に適切な場所へ配置されることで、臓器機能の発現に重要な細胞種へと分化運命が決定されます。特に、未分化な状態のヒトiPS細胞から目的とする臓器のオルガノイドへ分化誘導する工程では、発生段階に相当する複数の中途分化細胞の状態を経るために、1〜数ヶ月という長時間の培養作業が必要です。また多くの場合、これらの工程の中には、三次元的な構造の誘導や維持に必須な、基底膜成分などを含む細胞外マトリックス中へ細胞を埋め込み、極性を付与するステップが含まれます。つまり、ヒトiPS細胞から一定の品質のオルガノイドを再現よく創出するには、二次元と三次元の両方の培養条件を精査することが研究上、避けては通れません。具体的には、iPS細胞の品質管理に加え、培養過程において細胞集団が生み出す形態的な変化(morphogenesis)をはじめとする三次元培養中の細胞の振る舞いなど、分化誘導の工程をシームレスに長期間モニターすることが非常に重要になると考えます。
本アプリケーションノートでは、肝臓オルガノイドの創出手法(Cell Metabolism 2019, Gastroenterology 2021)を例に、インキュベーションモニタリングシステムCM20を用いた分化誘導のプロセスを観察することを試みました。
CM20を用いて、未分化なヒトiPS細胞から、二次元シート状の胚性内胚葉を経て、スフェロイド状の後方前腸が形成されるまでの立体的な形態変化の観察が可能かどうかを検証します。
CM20のオリジナルのセッティングを用いて、ヒトiPS細胞の維持培養の過程だけでなく、胚性内胚葉への分化やそれに引き続く後方前腸スフェロイドの出現を観察することができました。この後方前腸スフェロイドは、二次元の細胞シートから細胞自律的に三次元の細胞集合体が形成されることを経て創出されます。このような形態変化のプロセスをCM20で追跡可能であることが実証されました。肝臓だけでなく、胃や腸などほかの内胚葉臓器のオルガノイドも、胚性内胚葉からの形態変化を経て形成される腸原基スフェロイドを元としていることから、このようなオルガノイドの分化誘導系にもCM20によるモニタリングは広く活用可能と考えられます。
CM20のソフトウェア機能※1を用いて、マトリゲル中で三次元的に分化・成長する肝オルガノイドの培養過程の観察が可能かどうかを検証する。
CM20の機能を用いることにより、24ウェルプレート内に作成した、マトリゲルドロップ中で三次元培養した肝オルガノイドの分化過程も2週間程度追跡することが可能となります。
CM20の機能を使用することで、形態変化が生じるような分化過程や細胞外マトリックスゲル中の三次元的なオルガノイドの分化・成長過程を追跡することができます。このことから、CM20によって、ヒトiPS細胞の維持・管理から、オルガノイドへの分化に至る長期培養過程をモニタリングすることができ、細胞培養の効率化、品質管理に貢献することが可能です。
武部貴則教授(左) | 一見非常にシンプルな作りながら、CM20はスフェロイド形成や細胞外マトリックスゲル内培養のオルガノイドもコントラストよく観察できることには正直驚きました。長期間の培養が必要なオルガノイドの形成・分化プロセスがインキュベーター内でどうなっているのか気になっている研究者は多くいるはずです。本機は幅広い細胞生物学関連分野の研究に活用できると思います。 |
※1 V1.2.5以降のソフトウェアに含まれる機能。詳細はこちら
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