自然免疫とは、生体に先天的に備わっている働きであり、体内に侵入したウイルスなどの病原体に対する最初の生体防御です。その主な機能の一つとして、数種類の白血球を感染部位に呼び寄せることが知られており、好中球や単球・マクロファージなどが協調して働き、ウイルスに対する生体の防御力を高めています。この自然免疫のしくみをより深く理解することは、研究者がワクチンや治療法の開発とその効果を高めるために非常に重要です。
本アプリケーションノートでは、Minsoo Kim先生らが、2光子顕微鏡FVMPE-RSを用いて、インフルエンザウイルスに感染したマウスの気管内における好中球、単球、マクロファージの動態を調べました。生体内を3次元的に且つ精細にタイムラプス観察することは大変難しいことですが、高感度FVMPE-RSを使用することで、これまで認識されていなかった好中球、単球、マクロファージの相互作用による運動パターンを明らかにすることができました。
動画1:インフルエンザウイルスに感染したマウスの気管における好中球の移動を示す3次元再構築画像
赤:好中球(tdTomato)、白:血管(Alexa Fluor 647)
tdTomatoの蛍光は975nmで励起、575-630nmで検出。Alexa Fluor 647の蛍光は1200nmで励起、645-685nmで検出。データは文献[1]より引用。
今回の実験では、インフルエンザウイルスに感染したマウスの気管での好中球の動きを観察するため、Ly6G-Cre/ROSA-tdTomatoマウスにインフルエンザウイルスを感染させました。インフルエンザウイルス感染後3~6日のうちに一時的に好中球と単球の気管内への大量の浸潤がみられました。さらに血管を標識するために,Alexa Fluor 647で標識されたCD31抗体をイメージング前にマウスに静脈注射し、麻酔下のマウスの気管にカニュレーションした後、2光子顕微鏡を用いてイメージングを行いました。その結果tdTomato+の好中球(赤)と血管(白)の両方を観察することができ、インフルエンザウイルス感染マウスの気管では、好中球が隣接する血管の周りを遊走していることがわかりました(動画1)。
次に、インフルエンザに感染したマウスの気管における好中球と単球・マクロファージ両方を観察するため、Ly6G-Cre/ROSA-tdTomato/CSF1r-EGFPマウスにインフルエンザウイルスを感染させました。好中球にGFPとtdTomatoの両方(赤/オレンジ)が、単球/マクロファージにGFP(緑)のみが発現されているため、2光子顕微鏡を使用してインフルエンザ感染マウスの気管を観察したところ、GFP+/tdTomato+の好中球、GFP+の単球/マクロファージの詳細な動きを可視化することができました(動画2)。これにより感染後5日目に、ほとんどの単球・マクロファージが非運動性になった一方、多くの好中球は高い運動性を維持し、常に周囲の単球・マクロファージに近接して遊走していることが確認できました。本実験のような2波長励起での多色イメージングでは、励起ビームの位置ずれによるチャンネル間の画像のずれが解析を妨げとなることがあります。FVMPE-RSはレーザーラインごとに4軸での自動アライメント機構を搭載し、自動でレーザーの入射角を最適化することで精度の高い局在解析を行うことができました。
動画2. インフルエンザに感染したマウスの気管内における好中球と単球・マクロファージの遊走と相互作用
赤/オレンジ:好中球 (GFP/tdTomato)、緑:単球/マクロファージ (GFP)、白:血管(Alexa Fluor 647)
GFPとtdTomatoの蛍光はいずれも975nmで励起後、495-540nmと575-630nmで検出。Alexa Fluor 647の蛍光は1200 nmで励起し、645-685 nmで検出。スケールバー:50μm。データは文献[1]より引用。
さらに高倍で詳しく観察すると、好中球と単球・マクロファージ間の相互作用パターンがより詳細に明らかになりました。感染後6日目のマウス気管での単球・マクロファージ間の好中球の移動を三次元的にタイムラプス観察したところ、運動性の高い好中球(赤)が、運動性の低い単球/マクロファージ(緑)の周囲を活発に遊走している様子が確認されました。この動きにより、役目を終えた好中球が単球/マクロファージに貪食され、感染した気管から取り除かれるメカニズムが明らかになりました。
動画3.
インフルエンザウイルスに感染したマウスの気管における好中球と単球・マクロファージの詳細な相互作用を示す3次元再構築画像(感染後6日目)
赤:好中球(tdTomato)、緑:単球/マクロファージ(GFP) 白:血管(Alexa Fluor 647)
GFPとtdTomatoの蛍光はいずれも975nmで励起後、495-540nmと575-630nmで検出。データは文献[1]より引用。
多光子励起レーザー走査型顕微鏡FVMPE-RSは、独立した2つの多光子励起レーザーを搭載しており、多波長多光子イメージングを同時に行うことができます。レーザーの調整を繰り返すことなく、それぞれの蛍光体に対して最適な励起波長を同時に使用することができます。また、それぞれのレーザーのパワーを独立して制御することで、異なる蛍光体のバランスのとれた画像を得ることができます。 |
---|
門型フレームを採用することで、様々なサンプルに対応できる高い自由度を実現しました。顕微鏡下のサンプルスペースが広く(640×520×350mm)、小動物のin vivo生体内イメージングに最適なほか、自作の実験装置にも対応しています。 |
---|
多光子励起専用対物レンズは、組織の深部における多光子イメージングに最適です。光学コーティングは400nmから1600nmまでの良好な透過率を持ち、近赤外域の励起と可視域の蛍光の収集を効率的に行うことができます。オリンパスの水浸式XLPLN25XWMP2対物レンズは、高い開口数(NA 1.05)、長い作動距離(2.0mm)、広い視野(OFN 18mm)を持ち、in vivo生体内多光子イメージングに優れた性能を発揮します。 |
---|
アプリケーションノート制作にご協力賜りました先生:
米国ニューヨーク州ロチェスター大学 微生物・免疫学部 David H. Smith Center for Vaccine Biology and Immunology Minsoo Kim先生、Kihong Lim先生
参考文献
Please adjust your selection to be no more than 5 items to compare at once
このページはお住まいの地域ではご覧いただくことはできません。
You are being redirected to our local site.