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アプリケーション

ZドリフトコンペンセータIX-ZDCを用いた1細胞レベルでの多次元セルベースアッセイ


1細胞レベルでの多次元セルベースアッセイ

細胞を用いた生理反応・応答試験において、1細胞レベルで薬剤濃度依存的な生理活性を観察する場合には、効率的に多検体のデータ取得ができるセルベースアッセイ系を構築します。セルベースアッセイでは主にマルチウェルマイクロプレート上で細胞培養が行われますが、顕微鏡を使った試験では、細胞培養されているマイクロプレート各ウェルへ異なる濃度の薬剤を投与し、培養細胞の観察に最適な倒立型顕微鏡で各ウェルでの細胞の生理反応・応答が観察されます。このように倒立型顕微鏡を用いたセルベースアッセイは、近年、倒立型顕微鏡のシステム電動化に伴い、細胞増殖や毒性のような細胞致死活性の試験において、全自動で細胞増殖の経過を連続的に数日間にわたって観察できるようになりました。このような電動倒立型顕微鏡を用いることで、多次元での薬剤濃度依存的な細胞増殖や細胞内生理活性の画像が効果的に取得できるようになり、1細胞レベルのセルベースアッセイ解析がさらに進むようになりました。ここでは、京都大学大学院医学研究科 生命動態システム科学拠点事業 時空間情報イメージング拠点生命動態制御研究室 小松 直貴博士(現:京都大学大学院生命科学研究科・生体制御学)、青木 一洋博士らが研究成果として2015年2月に英国科学誌「Oncogene」で論文発表された内容をもとに、フル電動倒立型リサーチ顕微鏡IXシリーズのZドリフトコンペンセータIX-ZDCを用いた多次元セルベースアッセイの一例をご紹介させていただきます。

ZドリフトコンペンセータIX-ZDCアプリケーション
FRETバイオセンサーを用いた癌細胞におけるMEK阻害剤抵抗性の解析

1)FRETバイオセンサーを用いたタンパク質キナーゼERK活性の可視化

癌化との関連が広く知られているRas-Raf-MEK-ERKシグナル伝達系は分子標的薬のターゲットとして近年注目を集めていますが、抗癌剤抵抗性との関連については未解明な点が数多く残されています。京都大学大学院医学研究科 小松 直貴博士、青木 一洋博士らは、抗癌剤抵抗性においてRas-Raf-MEK-ERKシグナル伝達系が果たす役割の一端を定量的に明らかにするため、構成因子の一つ、ERKタンパク質キナーゼの活性を可視化するFRETバイオセンサーを用いて複数の癌細胞株におけるMEK阻害剤の抵抗性を解析しました。

ERKとS6K活性を可視化するFRETバイオセンサーの構造

Fig1. ERKとS6K活性を可視化するFRETバイオセンサーの構造
FRETバイオセンサー分子内のERKまたはS6K基質がリン酸化されると、分子内のリン酸化ペプチド結合ドメイン(WWまたはFHA1)と結合し、バイオセンサーの立体構造が変化する。これによりCFP-YFP間のFRET効率が上昇する。

2)ZドリフトコンペンセータIX-ZDC を用いた多次元セルベースアッセイ系の構築

ERK活性を可視化するFRETバイオセンサーFig1を発現したHT-29細胞(BRaf V600E変異)が培養されている96各ウェルガラス底プレートの各ウェルに濃度の異なるMEK1/2阻害剤(AZD6244)を投与後、フル電動倒立型リサーチ顕微鏡IXシリーズを用いて各ウェル内の細胞内におけるERK活性変化や細胞増殖の様子を3日間連続で観察しました。ここでは、フル電動倒立型リサーチ顕微鏡IXシリーズに搭載されたZドリフトコンペンセータIX-ZDCを用いることで長時間観察においても、各ウェル撮影時において自動でフォーカス調整され、常にピントのあった画像を取得することができました。

ZドリフトコンペンセータIX-ZDCを用いた多次元セルベースアッセイ系
Fig2. ZドリフトコンペンセータIX-ZDCを用いた多次元セルベースアッセイ系
画像内の輝点はERK活性FRETバイオセンサー発現細胞の核を表し、暖色ほどERK活性が高く、寒色ほどERK活性が低いことを示す。

3)MEK1/2阻害剤濃度依存的なERK活性と細胞増殖率の定量解析

小松博士、青木博士らは上記多次元セルベースアッセイ系Fig2より得られたHT-29細胞(BRaf V600E変異)のデータからMEK1/2阻害剤(AZD6244)濃度依存的な反応を解析するため、横軸:MEK1/2阻害剤(AZD6244)濃度、左縦軸:細胞増殖率(Growth rate(/day))、右縦軸:ERK活性(ERK activity)をプロットしてグラフFig3を作成しました(MEK1/2阻害剤投与1日後のデータ)。またMEK1/2阻害剤濃度依存的なERK活性と細胞増殖率の関係性を解析するため、横軸:ERK活性、縦軸:細胞増殖率をプロットしてグラフFig4を作成しました。その結果、HT-29細胞ではMEK1/2阻害剤のERK活性に対するIC50と細胞増殖率に対するIC50はほぼ同等の値を示すこと、また細胞増殖率はERK活性にほぼ線型に相関することが分かりました。
 

HT-29細胞におけるMEK1/2阻害剤(AZD6244)濃度依存的なERK活性と細胞増殖率の応答HT-29細胞におけるMEK1/2阻害剤(AZD6244)濃度依存的なERK活性と細胞増殖率の関係性

Fig3. HT-29細胞におけるMEK1/2阻害剤(AZD6244)濃度依存的なERK活性と細胞増殖率の応答

Fig4. HT-29細胞におけるMEK1/2阻害剤(AZD6244)濃度依存的なERK活性と細胞増殖率の関係性

4)複数の癌細胞株におけるMEK1/2阻害剤濃度依存的なERK活性と細胞増殖率

上記の解析を、HT-29細胞以外の癌細胞株についても行ったところ、(i) MEK1/2阻害剤のERK活性に対するIC50値は癌細胞株間でそれほど変わらず約0.01 μMである、(ii) MEK1/2阻害剤抵抗性細胞株(KRas変異)では細胞増殖率に対するIC50値がERK活性に対するIC50値より10倍以上大きい(ERK活性が増殖率と相関しない)ことが明らかになりました。
多数の撮影データが必要とされる本実験において、フル電動倒立型リサーチ顕微鏡IXシリーズに搭載されたZドリフトコンペンセータIX-ZDCを用いた多次元セルベースアッセイ系を構築することにより、癌細胞におけるMEK阻害剤抵抗性の解析を効率的に行うことができました。

複数の癌細胞株におけるMEK1/2阻害剤(AZD6244)のERK活性に対するIC50と細胞増殖率に対するIC50の比較

Fig5. 複数の癌細胞株におけるMEK1/2阻害剤(AZD6244)のERK活性に対するIC50と細胞増殖率に対するIC50の比較

撮影条件;
フル電動倒立顕微鏡:  IXシリーズ
Zドリフトコンペンセータ:  IX-ZDC
対物レンズ:  UPLSAPO20X dry
マイクロプレート:  96ウェルガラスボトムマイクロプレート

アプリケーションノート制作にご協力賜りました先生;
小松 直貴助教 京都大学大学院生命科学研究科・生体制御学
青木 一洋特定准教授 京都大学大学院医学研究科 生命動態システム科学拠点事業 時空間情報イメージング拠点生命動態制御研究室

上記研究内容の詳細は下記文献をご参照下さい。

論文出典:Oncogene. 2015 Nov 5;34(45):5607-16. doi: 10.1038/onc.2015.16. Epub 2015 Feb 23.
ジャーナル:「Oncogene」
発表日:2015年2月23日
タイトル:mTORC1 upregulation via ERK-dependent gene expression change confers intrinsic resistance to MEK inhibitors in oncogenic KRas-mutant cancer cells
著者:N Komatsu, Y Fujita, M Matsuda and K Aoki

多次元セルベースアッセイをサポートするZドリフトコンペンセータIX-ZDC

フル電動倒立型リサーチ顕微鏡IXシリーズのZドリフトコンペンセーターIX-ZDCは細胞への光毒性の少ないIRレーザーを用いて培養ディシュやマイクロプレートのガラス、プラスチック容器底面を自動で検出し、高速でフォーカス合わせができます。従来、温度変化等の外部環境変化が原因で生じていたピントずれを解消することができます。96ウェルマイクロプレート用いた場合は各ウェル底を高速でフォーカシングし、約2分*で全てのウェルをスキャンでき、スピードアップしたセルベースアッセイを実現します。*96穴マイクロプレートの各ウェル1点を露出時間30msで連続撮影した場合
汎用性の高いプラスチックボトムのマイクロプレートを使用する場合は、ZドリフトコンペンセータIX-ZDCに対応した20倍高NA位相差対物レンズUCPLFLN20XPHを用いることで、ガラスボトムのマイクロプレートと同様に常にフォーカスのあった蛍光・位相差画像が取得できます。ZドリフトコンペンセーターIX-ZDCのコンティニュアスAF機能はフォーカスを連続的に維持することができ、TIRF等シビアなピント合わせが要求される観察に最適です。

動画.20倍高NA位相差対物レンズUCPLFLN20XPHを用いたプラスチックボトム96ウェルマイクロプレートのセルベースアッセイ

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